何も発展しなさそうな空間
そもそも、4年半ぶりに婚活市場に舞い戻った凛は、最近ずっと違和感を感じていた。
凛が、20代半ばのころに参加していた食事会とだいぶ様子が違うのだ。
男性たちは、見た目も経歴もそこそこ。礼儀や愛想はあるのだが、どういう訳か皆一様に、彼女を作る気など微塵も感じさせないほどの草食っぷりなのだ。
終始和やかな雰囲気だが、特に盛り上がることもない。そんななか、凛が気を使って積極的に話しかけようものなら、“30歳を過ぎて焦る痛い女”に見られてしまう。
中には、凛の勤務先を聞いて、転職エージェントと勘違いしているのではと思うほどに、給与や転職事情などを根掘り葉掘り聞き出すだけの男もいた。
一緒に行った後輩女子に聞いてみると、「食事会はただの人脈作り。そもそも私、彼氏いるので。向こうもほぼ彼女もちだったみたいですけど」なんてさらりと言ってのける。
― 出会いって、こんなに難しかったの…?
凛は今まで、男性に苦労したり、ぞんざいに扱われた経験がない。
学歴・職歴ともに申し分なく、見た目は“上の下”レベルだと自負している。可愛い子が多いと言われる社内でも、目立つ部類に入っていた。それなのに、気がつけば周りは結婚をしたり、婚約をしたり。自分もその内の一人になるはずだったのに…。
くさくさした気分を変えようと、おもむろにInstagramを開いてみる。すると、ある友人のストーリーが目に飛び込み、体が凍りついた。
「結婚おめでとう!お幸せに〜」
そう書かれた画像には、何人かの友人たちに混じって、元彼の晴人と女性が花束を持って幸せそうな笑顔で写っている。
― え…嘘でしょ!?晴人と別れてから3ヶ月しか経っていないのに…!?
凛は、一瞬で流れてしまったストーリーに慌てて戻り、タグづけされた女性のプロフィール欄へ飛んだ。一番最近の投稿には、ワンピースを着た写真にこう書かれている。
「もうすぐ会えるね!#プレママ」
スラリと伸びた細い手足に似つかわない大きく膨らんだお腹が、少なくとも妊娠6ヶ月以降であることを物語っている。
― つまり…。私、二股されていたの…?別れたのは、彼女に赤ちゃんができたから…?
凛の頭に、晴人の最後の言葉がリフレインする。
「今は仕事が忙しくて、結婚は当分考えられないんだ」
そんな言葉を盾にして、結婚を望んだ凛に、別れという苦渋の決断をさせた晴人。だが、彼は、しれっと他の女と結婚していたのだ。
彼の言葉を信じていた凛は、「脳内お花畑は自分だった…」と悔しさと悲しみに打ちひしがれた。