2022.07.21
SPECIAL TALK Vol.94
自由な仕事を求めて、研究者の道に辿り着く
金丸:東大生のときは、将来についてどのように考えていたのですか?
成田:まず、朝起きられないというのは、何をするにしてもネックですよね。だから「いつ寝ても、いつ起きても、何をやっててもいい職業ってなんだ?」と考えました。
金丸:そんな職業、なかなかないのでは(笑)。
成田:でも探すうちに「研究者や大学教員って結構、自由なんじゃないか」と気づいて。
金丸:それが何歳くらいですか?
成田:20歳前後だと思います。
金丸:その時点で企業勤めという選択肢が消え、研究者への道を歩みだしたわけですね。
成田:はっきりしたビジョンがあったとか、強い意思で「これをやりたい」と選んだわけじゃないので、歩みだしたと言えるかどうか。「これは無理、これも無理」という消去法の結果、今の自分があるという感じです。
金丸:東大ではどちらの学部に?
成田:経済学部です。
金丸:ということは、もともと経済学に興味があったんですね。成田さんはさまざまなデータを活用しながら話をされるので、てっきり理系かと思っていました。
成田:理系は選んでいませんが、僕がやっていることは、理系と文系とが混じり合った研究だと思っています。コンピュータサイエンスや応用数学、工学的な発想はツールとして使う。でも解きたい問題は、どちらかというと社会や人間に関することですね。
金丸:では成田さんの中で文系・理系という壁はない?
成田:僕に限らず、その壁はだいぶ薄くなってきています。最近、アメリカで経済学は「STEM」(Science:科学、Technology :技術、Engineering :工学、Mathematics :数学の4つの頭文字を合わせたもの)に分類されます。
金丸:日本とは状況が違いますね。
成田:逆にコンピュータサイエンス、AI(人工知能)、機械学習といった領域の人たちが、社会問題を扱うようになってきていて、両側から壁を壊すような動きが活発になっていますね。
金丸:東大卒業後はどうされたのですか?
成田:大学院に進んで、その後はアメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)に。
金丸:東大に残らずに留学されたのは、何か理由があるんですか?
成田:全然違う環境に行ってみたかったんです。いつも大学にこもって、実際に世の中で起きていることとはあまり関係のない、抽象的な問題を理論的に考えることばかりやっていました。でも具体的な政策問題やビジネス課題をもっと工学的に解決したいと思うようになり、その風土が強いMITを選びました。
金丸:ではこれを機に、今の仕事につながる路線に変更されたんですね。
成田:そうですね。あとは、MITがあるボストンは都会に違いないと思い込んでいたので、ボストンなら耐えられるんじゃないかと。そしたらただの田舎町で。
金丸:都会だと勘違いしたまま、決めてしまったって(笑)。ずっと東京で暮らしている人からすると、田舎に感じるかもしれませんが。
成田:それにすっごく寒いんですよ。冬はマイナス20度くらいになるので、防寒のためにスキーウェアを着て、地獄のような日々を送りました(笑)。2016年にはMITで博士水準の学位を取得し、イェール大学で働き始めました。
大学教員と起業家、日本とアメリカ。二足のわらじを履くことに
金丸:成田さんにとっては、イェール大学での仕事が本業になるんですか?
成田:そうですね。大学教員をしながら、「半熟仮想」と名付けた小さな企業を経営し、個人のメディアを運営し、言論活動をやっていますが、今は自分探し中です。
金丸:まだ、どこに向かって突き進むかは決めていない?
成田:今は一時的にいろいろなことを並行してやりまくっているので、どれも本業という感覚がなくて。ここからもう一度、何にフォーカスしたいかを考え直そうかなと。
金丸:では、これまで行ってこなかった分野に挑戦する可能性もあるわけですね。
成田:仕事もそうですが、例えば日本とアメリカの割合をどうするか、あるいは他の地域も含め、どこを拠点にやっていくかも考えなきゃいけません。
金丸:では、アメリカで永住権を取ることだってありえると。
成田:その選択肢は前からあるんですが、決断をずっと先延ばしにしています。というのも、永住権を取ってしまうと、1年の半分以上はアメリカで過ごさないといけなくて。僕はアメリカの大学や研究開発の環境は好きですが、生活する場としてはそんなに好きじゃないんです。
金丸:そうなんですか?成田さんのような個性の強い人は、てっきり日本よりアメリカのほうが合っているのかと。
成田:長年暮らして分かったんですが、アメリカ社会ってある種クールな社会なんですよ。日本では考えられないくらい徹底した階級社会で、階級の違う人たち同士は、本音では同じ人類だと思っていない。例えば、大学の近所で銃殺事件が起こって騒然となったとしても、撃たれた人が大学関係者じゃないと分かった途端、何ごともなかったかのように大学内が静かになります。
金丸:生まれた階級に関係なく誰にでもチャンスがあるからこそ、アメリカは「自由と平等の国」だと思うのですが。
成田:できれば階級が違う人たちとはかかわりたくない、という意識が強烈だから、建前として「自由と平等」を掲げないと社会がもたないんでしょうね。僕はその本音と建前の差が気持ち悪いんです。
金丸:その点、日本はそこまで階級意識を持っている人はほとんどいません。
成田:不動の貴族みたいな存在もないし、生まれが悪くても本人次第でなんとでもなる。はっきりしたスラム街もない。それが日本の良さでもあり弱さでもあると思います。敗戦で財閥が解体されたことで、特権的な人が存在しない社会を無理やり作り出してきましたが、見ようによっては傷痕でもある。だからいろいろ総合して見ると、いい国、悪い国、いい都市、悪い都市はないんじゃないかと思うようになりました。どこであろうと、ちょっと慣れたら醜さも見えてくるし。
金丸:確かにアメリカがいい、日本がいいとは、一概には言えないですよね。
成田:ただ、生活の場としてどこに住みたいかと問われると、やっぱり東京なのかなと。いろいろな人が入り乱れていて、カオスな都市の良さがあるし、生活を支える地味なインフラがとにかく素晴らしいですよね。トイレとか電車とか宅配とかコンビニとかデパ地下とか。
金丸:確かに海外に行くと、日本のサービスや製品のクオリティの高さを改めて感じます。
成田:今の日本は、大きな富にはつながらないクオリティの作り込みみたいなものが、良くも悪くも一番巨大な文化だという気がします。給料が上がらず、国全体が貧しくなっていると言われるけど、それでも生活は快適です。かなり貧乏でも、世界に比べたらそこそこいい生活ができますよね。無理して変える必要がないから、日本では大きな変化がなかなか起きないんだと思います。
【SPECIAL TALK】の記事一覧
2024.04.19
Vol.115
~この楽器だからこそできる表現を。歴史ある箏を武器に世界を目指す~
2024.03.21
Vol.114
~勝負の気持ちから感謝の気持ちに。青森の伝統を守り、盛り上げたい~
2024.02.21
Vol.113
~学問という知的な武器を子どもたちに。学びの体験をアップデートして日本を変える~
2024.01.19
Vol.112
~庭師として素晴らしい日本文化を守り、次の世代へと伝えていきたい~
2023.12.21
Vol.111
~いつだって新しい人に出会いたい。シンプルな好奇心が新たな交流を生んだ~
2023.11.21
Vol.110
~自分が飲みたい日本酒で世界に挑戦し、日本酒業界に革命を起こしたい~
2023.10.20
Vol.109
~世界で一番愛される字を書きたい。世界を舞台に活躍する書道家へ~
2023.09.21
Vol.108
~ピアノや音楽をもっと自由に、多くの人が慣習にとらわれず楽しんでほしい~
2023.08.21
Vol.107
~未曽有の事態に直面して生まれた医療の新しいカタチ~
2023.07.21
Vol.106
~日本における医療の弱みはウェルビーイングの浸透で改善できる~
おすすめ記事
2022.06.21
SPECIAL TALK Vol.93
~世の中を良くするプラットフォームを通じて、次世代を担うリーダーへバトンを繋ぎたい~
- PR
2024.05.14
「彼とのデートがマンネリ気味で…」今週末行くべきは、非日常を味わえる有名店ばかりのグルメフェス!
2023.11.28
恵比寿で“仕事のサシ飲み”にぴったりの店5選!美食と美酒に会話が弾み、関係が深まる
2023.07.05
ハラスメント探偵~解決編~
「君にはパッションが足りない!」他の社員がいる中で、上司が大声で叱責。これってパワハラ?
2024.03.28
プロ★幹事
男女の出会いにおすすめの店4選!数多くの食事会を手がけてきた、女性幹事コンビが提案
2017.02.24
TBS&博報堂社員に聞いた、赤坂でリアルに通う名店8選
2023.09.27
ハラスメント探偵~通報編~
接待で相手を喜ばせようとした言動をセクハラだと訴えられた。その内容とは!?
2023.05.31
「港区で食事会」ならこの店が喜ばれる!艶やかな個室を備えたレストラン4選
2016.09.30
年末に向けてマスターしよう!これが接待を制するとっておきレストラン8選
2015.11.06
ガイドブックに頼らない、札幌出張で足を運びたい名店たち
東京カレンダーショッピング
『秋田かまくらミート』:秋田を代表するブランド牛「秋田由利牛」!サシの美しい上質なしゃぶしゃぶ用サーロイン
『肉のABCフーズ』:黒トリュフ塩付!牛タン&A5ランク黒毛和牛を使った極上ハンバーグ
『パンツェロッティ』:具材ごろごろボリューミー!フレッシュな野菜と肉感満載のフライドピッツァ
『HAL YAMASHITA 東京』:シルクのようななめらかさ!冷え冷えトロリの新食感"ウォーターチョコレート"
『レザンファンギャテ』:しっとりと濃厚で、コクのあるニューヨークスタイルのチーズケーキ
『ル・ボヌール 芦屋』:しっとりサクサク!フリーズドライ苺にホワイトチョコをたっぷりと浸透させた新感覚スイーツ
ロングヒット記事
2024.05.08
東京レストラン・ストーリー
いつも“片耳イヤホン”の29歳彼氏。彼女が「やめて」と指摘したら険悪な雰囲気になり…
2024.05.12
Editor's Choice~life style~
今日5/12が母の日って忘れてない?今すぐ贈れるギフトで癒やし体験をプレゼント
2024.05.07
Editor's Choice~hotel~
夏はすぐそこ!思いっきり非日常を味わえる海外のラグジュアリーホテル3選
2024.05.09
Editor's Choice~beauty & wellness~
母の日に贈るプレゼントは、もう決めた?今からの購入でも間に合う、限定ギフトボックス3選
2024.05.10
大人の週末ToDoリスト
ジョン・レノンのプライベートに迫る映画や、タイフードを楽しめるフェスなど、今週末のイベント3選