素敵な夫
退院の日。
聖路加国際病院の文字をバックにお決まりの写真を撮影し終えた2人は、タクシーに乗り込む。
「結衣ちゃん、お家に着きましたよー!」
自宅に帰宅するなり、昌也が勢いよく玄関を開けて声を張り上げた。
「ウ、ウーン」
昌也の声に驚いたのか、腕の中で眠っていた娘がビクッと体を震わせる。
「しっ!静かに!」
彩佳は人差し指を口の前に当てながらキッと睨むが、昌也は「ごめん、またやっちゃった」と、ヘラヘラ笑ってごまかした。
面会の時も何度か注意したが、どうやら反省していないらしい。
「もう…」と、発したところで、彩佳は続きをグッと飲み込んだ。
大きな声を出して結衣が起きてしまっては困る。赤ん坊が寝ている時間は、貴重なのだ。
すると昌也は、「そうだ、ちょっと待ってて」と、書斎に何かを取りに行った。
スリッパのパタパタという足音が、大きく響く。結衣が起きるのではないかとヒヤヒヤしていると、案の定結衣がモゾモゾと動き出した。
「ヒッヒッ」
どうやら目が覚めてしまったらしい。
「あー、ごめんね、ごめんね」
彩佳は、結衣をゆらゆらさせながらあやす。
― そういえば前にミルクを飲んだのはいつだったかな。
育児ノートを開きながら、そんなことを考えていた時だった。
「出産おつかれさま。ささやかだけど、プッシュギフト!」
リビングに戻ってきた昌也は、意気揚々とCHAUMETの紙袋を差し出す。
― い、今…?
プレゼントは嬉しいが、なにも結衣がグズグズしているタイミングで渡さなくてもいいだろう。
「あ、ありがとう」
とりあえず礼を言って育児ノートに視線を戻すが、昌也は空気を読まずに続ける。
「開けてみてよ。喜んでくれたら嬉しいな」
― だから今はやめてってば…!
今は、結衣を落ち着かせることが最優先事項だ。
「ごめん、とりあえず結衣が寝たら開けるね。でもとっても嬉しいよ」
彩佳は彼の機嫌を損ねないよう、無理やり笑顔を作って応えたが、昌也は不満そうな顔で書斎に戻ってしまった。
◆
「結衣、寝た?さっきはごめんな」
寝室で結衣を寝かしつけ、彩佳がリビングに戻ると、昌也はソファでコーヒー片手にくつろいでいた。
「私こそごめんね。もう落ち着いたから」
彼の隣に腰掛け、「ふぅ」と一息つくと、昌也が彩佳を抱き寄せて頭を撫でた。
「彩佳、改めて出産おつかれさま。結衣を産んでくれて、本当にありがとう」
顔を向けると、昌也が、愛おしむように優しい眼差しを彩佳に向けていた。
「うん」
彩佳は彼の肩に頭を預けて、寄りかかった。彼の温もりに、心がじんわりと温かくなる。
「これ、開けてみてよ」
さっき開けずじまいだったCHAUMETのボックス。
ワクワクしながら開けると、彩佳が以前から欲しいと言っていた、リアンのペンダントが入っていた。
キラキラと輝くダイヤモンドの光を見ていると、日々の疲れも少しだけ和らいでいく。
同時に、さっき昌也にいらだってしまったことを反省した。
「おつかれさま」とねぎらい、プッシュギフトを贈ってくれる旦那が、世の中にどれくらいいるのだろう。
彩佳は、自分が愛されていることを改めて実感し、幸せをかみしめた。
「これから結衣も一緒に頑張っていこうな」
「うん、昌也がパパで心強いよ」
彩佳は、昌也と2人、頑張っていこうと心に誓った。
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初めて迎えた休日で、昌也がとんでもないことをしでかす。
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この記事へのコメント
よく聞く話。ようやく寝た直後にグラスに氷ガチャガチャや、TVつけたら爆音だったとか。