2021.09.23
籠のなかの妻 Vol.12億の家を即決
今からちょうど半年前。2019年の春のことだ。
子どもを寝室で寝かしつけていると、雄二がバタバタと帰ってきた。
「静かに入ってきてくれないと、雄斗が起きちゃうじゃない!」
優衣の文句にも耳を貸さず、夫はなにやら楽しそうに含み笑いをしている。
「優衣、ちょっとここに座って」
雄二に手を引かれ、優衣はリビングのソファに座らされる。
「じゃじゃーん!」
仰々しく雄二から渡されたのは、一冊のパンフレットだった。
『原宿の新築分譲マンション!ファッションタウンの中心に佇む唯一無二の邸宅』
重厚な低層マンションの写真とともに飛び込んできた「分譲マンション」という文字に優衣の心臓がバクバクと音を立て始めた。
「も、もしかして…?」
恐る恐る尋ねた。
「そう、そのもしかして。買っちゃいました!マンション!」
雄二は目を輝かせ、意気揚々と答えた。
「え!?買った?モデルルーム見にいこう、とかじゃなくて?いつの間に買ったのよ?ローンは?」
矢のように質問を投げかけているうちに、さっきまでの胸の高鳴りはどこぞへ消え去った。
そして、なんの相談もなくマンションを買っていた事後報告に、優衣はただただ唖然とするしかなかった。
― 原宿の新築マンションなんて…。
「一応ローンは組んだよ。審査も通ったし、完成は1年後。引っ越し楽しみだなー」
子どものように雄二ははしゃいでいる。
「う、うん。でも原宿で新築なんていくらしたの?」
「金額のことは気にしなくていいよ。資産価値のあるマンションを買っておけば、老後も安心だろ?」
雄二が余裕たっぷりに笑う様子を見ても、優衣は不安を隠せなかった。
夫が寝たあと、一体どんな家なのかと気になってネットで検索してみる。
夫が購入したというマンションは、原宿にあるファッションビルの横道を通り抜け、キャットストリートの辺りにある物件だった。間取りは2SLDK。
売り出し価格も一緒に調べてみると、2億を余裕で上回る高級分譲マンションのようだ。
実は起業して以降、優衣と雄二はお互いの稼ぎを把握していない夫婦だった。家賃と光熱費、そして保育園料はすべて雄二が負担している。
優衣が担当しているのは、子どものリトミックと食費くらいのものだ。
優衣は年収900万ほどの給与をもらい、そのほとんどを自由に使うことができたため、実際夫がいくら稼いでいるのか、あまり気にしてこなかったのだ。
― 仕事がうまくいってるのは知っていたけど、なんの相談もなしに原宿にマンションを買うなんて…。
こう言ってはなんだが、雄二はFランクの私大出身にしては、頭も切れ、仕事ができる。それも、驚くほどに直感が働く男だ。
それまで勤めていた種苗メーカーを辞め、マイホームの頭金のために貯金していたお金をすべてつぎ込んで起業すると言い出したときも、直感だった。
でもこのときは、決断する前にきちんと相談があったのだ。
向こう見ずでも情熱を持って仕事をする夫を尊敬していた優衣は、「2年で軌道に乗らなかったら辞める」という条件で、承諾。
だから今回は、急に新築マンション購入を決定してしまった夫に、不信感を覚えざるを得なかった。
雄二の取り組んでいる事業は、珍しくてオシャレな観葉植物や多肉植物を月替わりでリースできる、言わば植木のサブスク。
義母いわく、雄二は子どもの頃から植物を育てるのがうまく、祖父が育てていた盆栽も彼が世話をするようになってから花を咲かせるようになったそうだ。
結婚後しつこいほど聞かされた話に半信半疑だったが、まんざら嘘ではなかった。
夫の事業の評判は、オシャレなカフェやアパレル店舗、デザイン事務所などに口コミで伝わり、あっという間に、30人の社員を抱える会社に成長したのだった。
しかしまた、コメント炎上しそうな連載だ。お金の話とモラハラが絡んでいるから。
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