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「ねえミア、今日また彼氏いるって嘘ついてなかった?もういい加減、“日替わりカクテル”状態から抜け出しなよ」
その夜、期待以上の極上フレンチを堪能したあと、気ままな2次会で恒例のお説教タイムが始まった。
同僚のうち、特に仲のいい3人でディナーに行ったら、そのうちの1人であるサキが旦那さんと暮らすマンションへ向かう。キッチンのカウンターであれこれ語るのがお決まりのコースだ。
ここでならば気兼ねなく話ができるし、本音が話せるから。
サキの旦那さんがその日の気分に合わせて作ってくれるカクテル。趣味で作っていることもあり、毎回少し違って、気分の数だけ種類があって飽きない。
「私、辛口をリクエストしてもいいですか?あと腐れなくて、すっきりできるのを」
「ミア、それカクテルの話?それとも、男?」
サキのツッコミが嬉しい。私の考えをどう思っているかは別にして、私をわかってくれてる証拠だ。
正直に言えば、私が関係を持っている人は、複数人いる。
甘い『Alexander』、すっきりとした『XYZ』、個性的な『Silver Streak』…
カクテルのようにいろんな種類をその日の気分で楽しみたい。
サキが言う通り“日替わりカクテル”状態だ。
「やめた方が良いと思いつつも、真剣な交際となると、それに費やすコストが見合う気がしないんだよなあ。考えるだけで、どれだけ自分の貴重な時間を奪われるんだろうって思っちゃう…。それに、まだいろんな味を楽しみたい。1人だけなんて人生損してるよ」
「うわっ、またコストとか言ってる。効率とかコストとか、その仕事脳どうにか切り替えられないわけ!?これ、恋愛だよ」
恋愛大好きな“ザ・女子”代表ともいえるユカは、呆れた様子でこちらを見ている。
「それね、多分本気になれる相手じゃないってことだよ。ミア」
旦那さんがベッドルームへ行くのを見計らい、サキは「私は知っている」と言わんばかりにニヤリとしながら語り始めた。
「私もミアと同類だったじゃん?“日替わりカクテル最高の会”とかしてたし」
私たちは大学時代から、この関係を”日替わりカクテル”と呼んで楽しんでいた。
「旦那に出会ってから、どんなことしたら喜ぶかな?とか嫌な気持ちにさせたくないからやめとこうとか、自然と考えるようになったんだよねえ」
サキは今まで見たことないくらいの優しい表情で、遠くを見ている。
「こんな私でもそんな感情湧くんだ!ってびっくりだけどね。あと今じゃもう、旦那1人で満足だし、なんなら旦那とすらしなくても全然やっていけちゃってるわ」
「本気になれる相手、ねえ」
「あれ、前付き合ってたケンとか割と真面目に付き合ってたよね?」
たしかに私にも、かつては真剣に思える相手がいた。
すべて彼が初めてだった。初めて、周りに真剣に付き合ってると言った相手だった。
「そうだねえ…。でもあんなに長いあいだ付き合って無理だったんだから、もう無理なんだよ」
彼に嫌な思いをして欲しくないと思って、気持ちのない男性と関係を持つことを絶っていた。けれど私は結局、1人に縛られないで自由になりたかった、というわけだ。
私と同じ考えを持つ人は滅多にいない。だから付き合という行為は無駄だ、と思っていたのだ。
この記事へのコメント
双方納得してるならいいけど、ミアは嫉妬が芽生えてきたみたいだから、だったら正式に恋人になった方が精神衛生上いいんじゃないかな?
って聞き方が、何だか馬鹿っぽいんだよ。お付き合いされてる方とかいますか?でいいのに。
一瞬どんな?と思ったら、
後腐れなくだった😪😪