サキの家からの帰り道。さっきまで降っていた雨が止んで、どこか懐かしい匂いがする。
これから一緒に帰るのであろうカップルとすれ違いながら、私はひとりで、バッチリきめこんだ服を纏って歩いていた。
ー 私が本当に欲しいものってなんだろう?
キャリアも美しさも恋愛も、欲しいものはすべて手に入れてやる、そう思ってここまできた。好きなだけ男性とデートして、すべてを手に入れた気になっていた。
けど、心のどこかで、何かが足りていないことに気づいていたのかもしれない。サキの優しい表情、ケンと付き合ってた頃の満ち足りていた気持ちを思い出す。
本音をぶつけ、それでもずっと一緒にいたいとお互いが想える相手。そんな存在ってあり得るのだろうか。そしてもしもあり得るならば、私はどうしたらその人に会えるのだろう?
「…本音をずっと隠していたら、会えるわけないんだよね」
つぶやきは夜の空気に溶けたけれど、その感覚はいつまでも私の胸に残っていた。
◆
それから半年後。私の状況は予想外に変化していた。
「ミア、何飲む?せっかくのいい天気にドライブだし、フラペチーノにしよっかな〜!」
子どもみたいにはしゃいでいる“彼”に動揺しつつ、ソイラテ一択だった私は「何にしようかな」と悩んでいるフリをした。
”彼”…カイトは同僚で、関係を持ってもう数ヶ月以上経っている。
鍛えられた体に白い肌、センター分けで前下がりの黒い髪の毛がよく似合った。そのルックスに惹かれて、思わず私から声をかけたのが始まりだ。
今日は江ノ島へドライブ。二人の好きなEDMを大音量で流していたら、あっという間に江ノ島海岸についた。
「今日のディナーはどうする?都内に戻る?」
「うーん、それがさ」
照れ臭そうにカイトが遠くの方の海を見ている。
「少し早めの時間だけど、この近くのレストラン予約したんだよね」
素直に嬉しかったと同時に少し動揺した私は、ぎこちない笑顔で「うそ、楽しみ」と笑ってみせた。
私たちは、身体の関係を持っている。デートはするし、デートの時は手も繋いでいた。「付き合おう」というやりとりはしていないけれど、側から見たら、どう見てもカップルだと思う。
「本日は、記念日か何かなんですか?お似合いなカップルだなと思って見惚れちゃいました」
「ありがとうございます」
カイトが予約してくれたのは、逗子海岸の近くにある、綺麗な景色が見えるレストラン。ウェイターからの質問に気まずそうにしている私をよそに、カイトが答える。
「ねえ、ミア」
不意に真面目な表情で私を見つめるカイトと目が合うと、逸らすことができなかった。
「よく考えてみたんだ。できるだけ正直に、自分の気持ちを。ミアには俺のパートナーでいて欲しい」
彼女ではなく”パートナー”と言ったのは、お互い他の異性に関してオープンな関係をよしとしているからだろう。誰とも共有できないと思っていたこの価値観が同じだと知ったときから、私たちはお互いを意識し始めたのだから。
「うん、そうだね。私もそう思ってる。パートナーはカイトだけ」
「精神的につながりを感じるパートナーは、これからもミアだけ。俺たち、人とはちょっと違うかもしれないけれど、信頼があるからうまくやっていけるよ」
世間一般の定義なんて関係ない。それが私たちの答えだった。
いつでも自分に正直に、自分も相手も尊重したい。セルフラブから目を逸らさない、私たちらしい関係だ。そう思ったら、世間からの見られ方を気にしていた頃を思い出して笑えてきた。
…ところが、そんな幸せな関係を手に入れたと有頂天になった直後。思いもよらないことが私に起こった。
帰り道、カイトの希望で鎌倉に寄った。有名なチョコレートケーキ屋に行きたいらしい。
カイトも私もお酒は大好きだが、甘いものは一切口にしない。
― だれにあげるの…?
賞味期限は明後日。近いうちに会うのだろうか、チョコレートケーキを熱心に選ぶカイトを見ながら、私は愕然とした。
女にあげるとは限らない、でも……。
今まで経験したことのない"嫉妬"という感情が、少しずつ少しずつ、私を侵食していくようだった。
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この記事へのコメント
双方納得してるならいいけど、ミアは嫉妬が芽生えてきたみたいだから、だったら正式に恋人になった方が精神衛生上いいんじゃないかな?
って聞き方が、何だか馬鹿っぽいんだよ。お付き合いされてる方とかいますか?でいいのに。
一瞬どんな?と思ったら、
後腐れなくだった😪😪