不穏な彼女
土曜日、ついにお披露目会の日がやってきた。
誠と咲良は昼前に目黒駅で待ち合わせてから、圭一の家まで一緒に歩いていく。目的地には、遠目でも目立つ大きな一軒家が建っていた。
圭一はこの家に両親と妹と共に住んでいて、家族4人で暮らすには十分すぎる広さがある。彼がいまだに実家暮らしなのは、勤務先が実家に近いという理由だそうだ。その日は、両親が朝から外出しているから不在だと言っていた。
誠は何回も訪れたことがある場所だが、そのきらびやかな雰囲気はいまだに緊張する。咲良も彼の家を見てテンションが上がっていることは、はた目でもわかった。
彼の家のお手伝いさんに案内され、誠はリビングに足を踏みいれる。
「誠。こっちだよ」
大きな窓を開放した先にあるガーデンテラスで、圭一が笑顔で手を振っている。横にいる真紀もにっこり笑いながら、テーブルに食事の準備をしていた。
7月の初夏の日差しのなか、緑に囲まれた美しい2人。まるで映画のワンシーンにいるかのようだと、誠は思わずため息をついた。
「お待たせしました。こちら、僕の彼女の篠宮咲良さん」
誠が咲良を紹介すると、圭一は「どうも」と笑顔で頭を下げた。
「彼は圭一。僕の中学時代からの友人だよ。こちらの真紀さんは彼の婚約者で…」
「可愛い子だね。誠にはもったいない!」
圭一は食い気味に嬉しそうな声を上げた。誠は咲良と恥ずかしそうに顔を見合わせる。
「素敵なおうちに、こんな格好でごめんなさい。てっきり、誠さんといつも行くような所で会食だと思っていたから…」
光沢ある赤いワンピース姿の真紀を見て、咲良はボーダーのTシャツにデニムパンツ姿の自分を気にしているようだ。緊張から少し足が震えている。
「ああ、そうか。お台場でファミレスの話、聞きましたよ。こいつ女慣れしてないから、ごめんなさいね」
「うるさいなー。お前みたいなモテ男と俺は違うんだよ」
小突かれつつも圭一は満面の笑顔だ。喜ぶ彼に誠も嬉しくなってしまう。その様子に、咲良の心も徐々にくだけてきているような気がした。
その後はお酒の力もあり、テラスには楽しそうな笑い声が響く。
法廷並みの鋭い質問をする圭一に、咲良は戸惑いつつ恥ずかしそうに答えている。その顔が可愛らしくて、誠は優しい笑顔で彼女を見つめていた。
― あれ?そういえば…。
…宴もたけなわのなか、誠はふとあることに気づく。
咲良を紹介して以来、真紀が一言も話していないのだ。
彼女は黙々と誰とも目を合わせずにグラスを傾け、手持ち無沙汰を隠すように片付けや料理の準備をしている。このような場面では、いつも会話に入ってくるはずなのに相づちもしない。
― 人見知り、しているのかな。
誠は真紀を気遣うつもりで、話しかけてみた。
「真紀さんって、咲良さんと同じ29歳だよね。同学年じゃない?」
真紀の肩が静かに揺れる。話を振られるとは思っていなかったのだろう。彼女はしばらく沈黙してから、急に小さな声でつぶやいた。
「私はいいでしょ…」
真紀は「ちょっと電話してくる」と言い残して、テーブルから立ち上がり庭から出て行ってしまった。その不自然な態度に、誠は年齢のことが気に障ったのだと直感し彼女を追いかける。
「ごめん、真紀さん。デリカシー無くて」
その言葉で真紀は立ち止まり、潤んだ目で誠を見つめた。親友の恋人にもかかわらず、美しい瞳にドキッとしてしまう。
「…真紀、さん?」
真紀は誠の腕をぎゅっとつかんだ。そして、部屋の死角に引きずり込んで、耳元でそっと囁いたのだった。
「誠くん…あのコは、やめた方がいいと思う」
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突然の忠告に戸惑いを隠しきれない誠。真紀の言葉の理由とは…?
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この記事へのコメント
それはやめた方がいいですw
徐々に化けの皮が剥がれていく流れなのかな?