憧れの2人
「誠。そのイタリアンって、ファミレスでしょ」
デートから3日後の週末。
奥久保誠は中学からの親友・圭一とその婚約者・真紀とともに、自宅の近所にある行きつけのビストロで夕食をとっていた。デートの話を聞いて、圭一は爆笑し真紀はあきれている。
「まさか誠くんって、女を試しているの?」
「いやー…美味しくてコスパもいいし、ゆっくりできるかなって」
誠はそんな2人の反応が理解できなかった。
「まだ付き合って1ヶ月だよね。私はちょっと失礼だと思うけど?」
「でも、それが誠のベストだったならしょうがないじゃん」
圭一は若干引き気味の真紀をいさめるよう、誠をフォローした。誠はその言葉にそれ見たことか、と満足げだ。
「彼女も楽しそうだったよ。しかもちゃんと自分の分も払ってくれたんだ。2人で5千円もしなかったのにさ」
「めっちゃいい子だね。早く紹介してよ」
その圭一の言葉に、真紀の頬がふくらんだ。
「私だって払いたいけど、圭一が払わせてくれないじゃない」
真紀は自分への当てつけと感じたのだろう。しかし、圭一は当たり前のようにこう返すのだった。
「俺は単純にカッコつけたいだけだよ。奢らせてもらわなきゃ、わざわざ時間作って一緒にいてくれる真紀に申し訳ないし」
「もう、そんなことないって…圭一ったら」
一瞬で和らいだ表情になる真紀。その言葉はリップサービスではなく、まぎれもない圭一の本心だ。そんな謙虚な姿勢も、誠が彼を尊敬しているところなのだ。
圭一は都内の大手法律事務所で弁護士をしている。一方、真紀は有名アーティストのレコーディングにも参加し、ソロでも活動するヴァイオリニスト。容姿端麗で家は代々会社を経営している正真正銘のお嬢様である。
婚約中ではあるものの、2人はすでに夫婦のような気取らない関係だ。
上流の世界を知りながらも、誠のような地味な男にも気さくに接してくれる。2人は自分にとって自慢の親友であり、理想のカップルなのだ。
彼らに憧れて素敵な恋人が欲しくなり、誠は10年ぶりに重い腰を上げた、というところがある。
「じゃあ、再来週の土曜、うちで集まる?ボスからドンペリ貰ったんだ」
圭一が提案してきた “彼女お披露目会”の呼びかけに、誠は顔を上げた。幸いその日はまだ予定が入っていない。
「わかった、聞いてみる」
「今年の夏は、4人で旅行やキャンプに行けたらいいよな」
アウトドア好きの圭一は真紀に微笑むが、彼女は「仲良くなれるかしら」と不安な声でつぶやく。その瞬間を、誠は見逃さなかった。
真紀は女友達が少ないらしい。
そういえば彼女の口から女友達の名前を一切聞いたことがない。お嬢様育ちゆえ、隙がなく敬遠される存在だからなのだろう、と誠は思っている。
一方、篠宮咲良は誰とでも分け隔てなく付き合えそうな明るさがある。きっと真紀とも仲良くなれるだろう。
― ゆくゆくは、家族ぐるみでバーベキューとか…なんて。
帰り道、誠は近い未来を想像して口元を緩ませるのだった。
この記事へのコメント
それはやめた方がいいですw
徐々に化けの皮が剥がれていく流れなのかな?