ドクターKの憂鬱 Vol.1

ドクターKの憂鬱:「合鍵、もらってもいい?」医師が25歳の彼女と結婚を考えた矢先、実家に猛反対されたワケ

しかし、美憂を紹介した日の夜、母から連絡があった。

「素敵なお嬢さんだけど…結婚だけは、やめてちょうだいね」

そうは言われたけれど、僕は大して重く捉えなかった。時が経てば、母も許してくれると思っていたからだ。

だが、僕の考えが甘かった。

母はSNSで美憂を探して、「修史とは別れてほしい」と伝えていたのだ。

母の言い分はこうだ。

僕はいつか、父が経営する病院を継ぐ身である。今理事長を務めている父親は地元の政治家とも親交が深く、世間体を保つためにも、僕の結婚相手は良家のお嬢さんでないと話にならない。

「私、お母様からよく思われていなかったみたい…」

美憂からその一部始終を打ち明けられても、僕は「ごめんね」としか言うことができなかった。

母のことを疎ましく思う気持ちは、少なからずある。だが、すべては実家の病院を考えてのことだと思うほかなかった。

それに両親の反対を押し切ってまで美憂と結婚しても、その先にそれぞれの幸せがあるのか、僕にはわからない。

この一件以来、僕は無意識的に美憂を避け、仕事に没頭するようになった。

そして美憂も同じように、母から別れるように言われて以降、少しずつ家にくる頻度が減っていった。

顔を合わせる機会が減り、僕の中での美憂の存在も段々と薄れていく。

僕の短い休憩時間中に、彼女へ欠かさず送っていた短いショートメールも、気がつけば2ヶ月も間が空いてしまっていた。

― どうせ結婚しないんだから…。

そんな気持ちが、どこかにあったのかもしれない。

しばらくして、何気なく彼女のFacebookを見た時、僕との関係はもう終わったと一目見てわかる写真がアップされていた。

美憂が僕の大学の後輩と腕を絡ませ、幸せそうに笑っていたのだ。

「こういう大人しそうな子の方が、意外としたたかなんだよ」

明石の一言で、僕は少し救われた。

― そっか。僕のことが好きとかじゃなく、ただ医者と付き合いたかっただけなのかもな。

気になる子がいたこともあったし、僕に興味を持ってくれる子もいた。だけど、「付き合おう」の一言を、それ以来口にしなくなった。

ズルイとは思うけど、どうせ僕に自由な恋愛は許されない。

決められた相手と結婚するまで、女性は遊ぶだけの、その時を全力で楽しむ関係でいい。

そう思っていた。あの時までは…。

彼女と出会った34歳


それから7年が経ち、34歳になった僕は、医師として働き始めてから4年目の春を迎えていた。

「おい、影山。週末、うちの親父が知り合いと一緒にクルーザーで初島に行くんだけど、お前も来ない?」

世話好きの明石は、時々僕を飲みの席や遊びに連れ出してくれる。この週末は珍しく地方病院でのバイトがなく、天気もよさそうだ。僕は明石の誘いに乗ることにした。

明石の父親は麻布周辺の一等地にいくつもの不動産を所有し、あの界隈で幅を利かせている名士である。


朝9時。明石の車で逗子マリーナに着くと、明石の父親とその友人たち、そして数人の女性が楽しそうに談笑していた。

「明石ジュニア、遅刻!遅いじゃないの!」

ある女性が僕らに気づき、真っ先に声をかけてきた。

白いサマーニットにエミリオ・プッチのショートパンツ。男性陣を前に美しい脚を惜しげもなくさらしたその女性は、シャネルのビーチサンダルをペタペタと鳴らしながら、僕らの前にやってきた。

歳は僕らよりも上に見えるが、年齢を感じさせないほどに綺麗で、洗練されていた。

「すいません、愛子さん。こいつが寝坊したんですよ」

明石が適当なことを言い、茶々を入れた。

「ほら、お友達のセンセも早く」

臆せず僕の腕をとり、笑いかけてきた彼女を見て、僕は思わずドキッとしてしまった。

この時、僕はまだ、彼女の正体を知らなかった…。


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「もう恋はしないと、誓ったのに…」34歳医師が惹かれていく、年上女性の魅力とは

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