ドクターKの憂鬱 Vol.1

ドクターKの憂鬱:「合鍵、もらってもいい?」医師が25歳の彼女と結婚を考えた矢先、実家に猛反対されたワケ

恋を諦めた27歳


「おかえりなさい。クリームシチュー作ってあるよ」

研修医時代、僕には美憂という彼女がいた。彼女は僕よりも一足早く家に来て、食事を作って帰りを待ってくれていたものだ。

2つ下の美憂とは、大学を卒業する直前にテニスサークルで知り合った。僕が研修医になりたてだった25歳のとき、知り合いを通じて再会したのがきっかけで付き合い始め、気がつくと2年が経っていた。

東京女子大出身で、大手銀行勤務。派手さはないけれど、素朴な印象の小柄で可愛い子だ。

「やったー!めちゃくちゃ腹減ってんだ!」


根が真面目な僕は、周りの研修医のように適当に遊ぶということができなかった。

医者の卵だからといって言い寄ってくるキラキラした女の子たちを、いつも警戒していたのだ。

美憂は秋田出身。真面目な性格で擦れてもなく、安心して付き合うことができた。

「クリームシチューにはやっぱりご飯だよね?私いつも上にかけちゃうの」

美憂のこういう気取らないところが好きだった。僕の実家では、クリームシチューはパンと一緒に出てくるけど、彼女の作る素朴な料理が忙しい僕の楽しみになっていた。

当時の僕は、いろんな科を決められた期間でローテーションする初期研修の時期で、目まぐるしい毎日を過ごしていた。

病院にいるときは電話に出られないし、メールやSNSも禁止されている。

僕は時間があるときに「疲れた」とか「ねみぃ」とか、ただの愚痴とも取れる1行メールを送るくらいだったが、彼女はそれを「生存確認」と言って喜んだ。

「合鍵、もらってもいい?」

彼女にそう言われた時、「本気で僕のことを思ってくれてるんだな」と正直嬉しかった。

なかなか連絡ができなくても、健気に家で待っていてくれる美憂を見て、結婚するならこういう子がいいのかもと思うようになっていった。



研修医になって3年が過ぎた、ある日。

「修史、ちょっといいお嬢さんがいるの。一度会ってくれないかしら?」

僕は神戸に住んでいる母から、初めて見合いの話を持ちかけられた。

「研修が忙しいから無理だよ。それに僕、彼女いるしさ。今度紹介するよ」

その時は、適当にあしらって電話を切った。

きっと美憂と会えば、見合いさせようなんて思わないはず。礼儀作法だの家のしきたりだのにうるさい母だが、有名女子大を卒業し、メガバンクで働いている美憂なら文句の付けようがないだろう。

だから、しばらくして「東京に行く用事ができたの」と母から連絡があった時、僕は美憂を紹介しようと決めたのだ。

帝国ホテルのラウンジで待ち合わせし、お茶をしている間中、話し下手な僕が間に入らなくとも、2人は話が弾んでいたように見えた。

それを見て、ひょっとしたら母も、彼女を気に入ってくれたのかもと僕は期待した。

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