「行きましょう」
夏絵は残ったスタッフに目配せすると、慌てて恵理と一緒に歩き出す。恵理は鼻をすすりながら、夏絵に向かって健気な笑顔を向けた。
「すみません。名前を覚えていただいているだけで本当に嬉しくて…。いつも、コンパニオンさんとか、お姉さん、なんて呼ばれちゃうんですよ。夏絵さんは素敵な方ですね」
そのまま夏絵も一緒に休憩に入り、二人は控え室のテーブルに向かい合って座っていた。
急に”夏絵さん”と下の名前で呼ばれたことに若干戸惑いながらも、親密さを感じてくれていることには、悪い気はしない。夏絵は照れくささのあまり、はにかんでしまう。
夏絵のその表情を見て安心したのか、恵理は急に笑顔になった。
「夏絵さんが優しそうな人でよかった」
恵理の笑顔は無防備で愛らしく、どこか儚げだった。その表情から彼女の奥底にある悲しみのようなものを、どういうわけか夏絵は感じてしまう。
「夏絵さんも私のこと、恵理って呼んでください。私、こういうご縁、大切にしたいんです。あの、夏絵さんって何歳なんですか?私は28歳です。けっこういってるねって言われちゃうことが多くて…。ちなみに独身です。彼氏もいません。夏絵さんは?」
「え…?あの」
興奮気味に頬を紅潮させた恵理は、夏絵が戸惑う様子をみて、さらに顔を赤くした。
「ごめんなさい、私。どうしちゃったんだろう」
あたふたする恵理の姿はかわいらしく、思わず夏絵も笑ってしまった。そして、気を取り直すように質問に答える。
「恵理さん。私は33歳で、結婚はしていないの。同じ会社に婚約者がいて、年内に籍を入れる予定」
「わ!すてき!おめでとうございます」
「ありがとうございます。でも、おめでとうはちょっと気が早いかな」
夏絵と恵理は目を合わせて笑うと、それをきっかけにお互いの仕事の話などで盛り上がった。
夏絵は、ベンチャー企業の最前線で働くキャリアを積んだ女性。一方の恵理は、イベントコンパニオンだ。身をおく環境も年齢も違う。それなのに、2人は不思議と話があった。
その日以降のイベント期間中も夏絵と恵理は、ランチや、ときには仕事帰りに夕食を共にするなど親交を深めていった。
恵理は、本当にかわいらしい女性だった。可愛らしいだけではなく、頭の回転も速い。イベントコンパニオンが美人でなくては務まらない仕事だということは分かっているが、美人なだけではない魅力を持つ恵理は、イベントコンパニオンでいることが「もったいない」と感じることも多かった。
そして、イベント最終日の前日。一緒に夕食をとるために訪れた近場のイタリアンレストランで、夏絵は思い切って聞いてみることにしたのだ。
「恵理ちゃんは、どうしてこの仕事をしているの?」
この記事へのコメント
なんだかこのクールの小説は似たような(しかも暗くなるような)話ばかりですね
報道ガールのような爽やかなお話を希望します
何もかも真似して最終的に婚約者
奪おうとする展開かな?