「月並みですけど、モデルやタレントとして活躍したかったんです。でも、結局ぱっとせずこのありさま。最近は、こういうイベント自体が減ってるし、仕事も激減で…。かと言って、他の仕事もやったことないし、将来のこと、考えないといけないのに…」
恵理は重い溜息を吐き、視線を落とした。笑顔がかわいらしいのはもちろん、こうしたいじけた顔やふくれっ面さえ愛らしい。
この美貌を持ってしても、タレントやモデルとして活躍するのは難しいのだろうか。芸能界で活躍するか、セレブと結婚して裕福な暮らしをすることも、恵理にふさわしい人生に思える。夏絵は他人事ではありながらも、恵理の置かれた状況にもやもやとした歯痒さを感じてしまう。
「夏絵さんはいいな。商社からコンサル、ベンチャー企業の立ち上げの中心メンバーって、絵に描いたような理想のキャリアですよね。本当に憧れちゃいます。そのうえそんなに美人で、年下のイケメンさんと結婚間近なんでしょ?本当にすごい」
興奮気味にそう捲し立てた恵理は、目を輝かせて言った。
「私、夏絵さんみたいになりたい」
まっすぐ憧れの目を向けられて、夏絵は照れ臭さにたじろいでしまうが、悪い気はしない。むしろ、こうして思ったことをためらうことなくはっきりと口に出せる恵理の姿が眩しくさえ見える。
「恵理ちゃんは留学経験があって英語も喋れるんだし、華やかなオーラはどこに行っても武器になるよ。それに、どこよりも厳しい業界で頑張ってきたんだから、自信を持って!」
自分の言葉があまりにも陳腐な気がして、夏絵は思わず気が滅入る。でも、恵理は感動に目を潤ませるのだった。
「ありがとうございます。明日で夏絵さんと一緒にお仕事できるの最後だなんて、寂しいです」
「LINEも交換していてるし、またいつでもご飯でも行こうよ」
「はい。約束ですよ」
「もちろん」
そう夏絵が答えると、おもむろに恵理は立ちあがる。
そしてゆっくりと席を移動し、夏絵の隣に座った。
夏絵が少々たじろいでいると、恵理はスマホを目の前にかざす。
「ツーショット撮りましょう」
「え?!…いいけど」
「ほら。笑ってください」
恵理は加工アプリのインカメラをオンにすると、夏絵にくっつかんばかりに顔を近づけ、何度もシャッターボタンを押した。
さすが、モデルもこなす恵理のことだ。自撮りは愛らしく、表情作りも完璧。一方の夏絵は、どこか戸惑った表情のまま固まっている。
― 人懐っこくてかわいいけど、ちょっと変わった子だな。
正直、恵理に対してそんな感想を抱く人も多いのではないだろうか。それでも頑張り屋さんの良い子、というのは間違いないはずだ。夏絵は、自分の人を見る目には自信を持っていた。
実は明日のイベント最終日には、恵理に渡すためのささやかなプレゼントも用意している。どんな愛らしい笑顔で喜んでくれるのだろうと想像すると、夏絵はワクワクが抑えきれなかった。
そして迎えた翌日。
夏絵は会場へと向かう道を、なんとも言えない気持ちで急いでいた。
イベントが最終日ということは、恵理の仕事も途切れてしまうということだ。
もしかしたら恵理は、ものすごく気を落としているかもしれない。
そう思うと夏絵は、まるで自分のことのように胸の痛みを感じるのだった。
この記事へのコメント
なんだかこのクールの小説は似たような(しかも暗くなるような)話ばかりですね
報道ガールのような爽やかなお話を希望します
何もかも真似して最終的に婚約者
奪おうとする展開かな?