「あっ...ネクタイ!その色って、なかなか合わせるの難しいですよね。素敵!オシャレさんですね」
「そう?日奈子さんに言われると、特別嬉しいよ!」
無理やり話題を見つけて適当に放った私の誉め言葉に、佐藤はパッと表情を明るくした。
ーふぅ、奇抜なネクタイしてくれてて良かった..
アプリを登録したのは、前の彼氏と別れた4月。
しかし、マッチしてメッセージのやりとりまではいくものの、実際に会えずに終わってしまった人がほとんどだ。
知らない人と食事をするという行為が、感染リスクと捉えている慎重派もいるのだろう。この時期になり、ようやくポツポツと会うことができ始めているというのが現状だ。
32歳。
美容医療の力を借りて、なんとか20代後半の見た目を死守しているものの、中身はちゃんと32歳だ。
もう、決して若くはない。それは自分がよくわかっていた。
ーいつか、結婚できたらいいな...
今までなら、楽しく甘い蜜を吸うだけの恋愛をしながら、暮らしているだけでよかった。
その"なんとなく付き合い続けていた彼氏"との終わりが来た、今年の春。
原因は確かに、社会を不景気にし人々を不安にした、あの感染症である。
しかし、それが直接的に二人を引き裂いたのではない。
コロナを上手い具合に理由にして、どちらともなく距離を置き始めた。
不要不急の外出はすべきではないから、外食デートもできないね、旅行もしにくいよね。そんなふうにして会うことを避けてきた。
そもそも私達は、友達よりはちょっと上の次元にいる、セクシーな関係の飲み友達みたいなもので、互いに本気ではなかった。
それだけだったのだと思う。
もし、彼の方が会いたがってくれたら... これを機に結婚したいと熱望してくれたら... 私たちの未来は違ったかもしれない。
だけど、LINEで別れをほのめかすと、彼は拍子抜けするほどアッサリと同意した。
気持ちを込めて書いた文章にかかった時間を返して?と、少し惜しくなるくらいに。
結婚を決めるのは、結局いつの時代も男性なのかもしれない、と思わずにはいられない。
だから、結婚したいのにできない女子は減らない。この令和の東京でも、女の方からプロポーズをするカップルなど全体の1%にも満たないだろう。
でも、32歳女子にだってまだ選ぶ権利があると信じたい。
別れるための恋人なら、もういらない。私は、今すごく結婚がしたい。
“どんな状況でもこの人となら乗り越えられる” そんな存在が必要だと、コロナが流行してから強く思った。
その人がいるだけで、生きていく意味や価値があると思えるような、そういう結婚がしたいのだ。
この記事へのコメント
普通の人は普通の暮らしをするんですよ。
自分の稼ぎ以上の暮らしをしようとするのは浅ましいです。
9月に知り合った人と「3回目のデートでお互いに嫌じゃなかったら真剣なお付き合いを」と言われて今日がその3回目のデート。
ドキドキしてますが、楽しんでこようと思います!