2020.07.13
報道ガールの恋愛事件簿 Vol.1
「じゃあ、カンパーイ!」
『RIGOLETTO BAR AND GRILL』に集まった男女6人の明るい声と、グラスの当たる音が重なった。爽やかな炭酸が口の中で弾け、えりかは思わず笑みを浮かべる。
今日は土曜日。先週は土日返上だったので、およそ2週間ぶりの休日だ。
えりかがキー局のTQBテレビに入社して、3年が経つ。同時に、報道記者歴も3年となった。
警視庁担当記者になってからは半年だが、噂以上の過酷な毎日を過ごしてきた。
「夜討ち朝駆け」と称し、捜査員…つまり警察官の出勤と帰宅を、毎日自宅前で待ち伏せてネタを取るため取材をする。
こうして取ったネタが、「捜査関係者によりますと…」という前置きとともに、ニュースで報道されるのだ。
しかしこれが大変で、えりかは大体朝4時に家を出て、ハイヤーに乗る。帰宅は日付が変わる頃に帰ることができれば、「今日は早かったな」と喜ぶくらいだ。
土日は土日で、平日に会えない捜査員の元に行ったり、事件取材に行くことが多い。
ーこんな25歳、彼氏できるわけないよなあ……。
「それ、おいしいですか?」
「えっ」
物思いに耽っていると、ふいに話しかけられ、えりかは慌ててグラスから唇を離した。
「いや、すごく味わって飲んでるなって思って」
「あ、いや、お恥ずかしいです」
穏やかな声に、頬が赤くなるのを感じた。
癖のない黒髪を自然にセットした男性は、えりかの正面に座り、その髪型と同じくらい自然に微笑んでいる。
「私、こういう場っていうか、食事会自体が久しぶりで……」
彼の嫌味のない甘いマスクに、自然と小さな声になってしまった。
すっと通った切れ長の瞳、白くすべすべとした肌。タイプど真ん中だ。
えりかの挙動がやや不審となっているのにも構わず、男性は再びグラスを差し出す。
「俺もです。幸村創太といいます」
「あ、えりかです。高杉えりかです」
「食事会、久しぶりなんですね」
「そうなんです。最近忙しくて、休みも本当に久しぶり……」
そこまで話して、しまった、と口をつぐんだ。と同時に、テーブルの下で隣から華奢な膝をぶつけられる。
同じ会社でニュース番組のディレクターをしている萌は、視線こそ全くこちらに向いていないが、ただ膝に与えられた衝撃が物語っていた。
『余計な事言わないでね』…。
「へえ、大変そうですね。忙しいって、どんな仕事しているの?」
ほらきた、当然の流れだ。避けては通れないとわかっていた。これは最大の難関なのだ。
「えっと、……外回りをしています!あんまりデスクワークはしないかな。創太さんは?」
えりかは一気に言い切り、満面の笑みを創太に向けた。
こういうときは、さっさと話題を相手に投げてしまうのだ。
「自動車メーカーで営業をしています。俺も外回りばっかり。えりかさんも営業?」
「そんな感じです」
うふふ、とあいまいに濁す。嘘は言っていない。本当のことも言っていないが。
創太も、仕事について触れられたくないことを察したらしい。
「そうなんだ。先週の土日は、何していたんですか?」
「土日……」
殺人事件の取材で、朝と晩はハイヤーに乗って捜査員を追いかけ、昼間は事件現場の住宅街で片っ端からインターフォンを鳴らし続けていました!…なんてことを言ったら、始まる恋も始まらない。
「ドライブしたり、散歩したりしていました。創太さんは?」
「俺はね……」
タラランタンタン。タラランタンタン。
創太の言葉を遮って、軽快な電子音が店内に響いた。
同じテーブルにいた男女の注目が、えりかの手元に置かれていたスマートフォンに集まる。
えりかは、すみません、と慌ててスマートフォンを裏返し画面を確認した。
表示されていたのは『本郷キャップ』。嫌な予感に、こめかみがひくりと震える。
もう一度、すみません、と小さく謝ってから、えりかは店の外に出て携帯を耳に当てた。
この記事で紹介したお店
リゴレット バー アンド グリル
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