“仕事”は、給与をもらうための手段。
そう割り切って仕事をしている人も多いのではないだろうか。
倉田梨沙(24)もそのうちの1人。ごくごく普通のOLで、出世欲だってもちろんない。
だがそんな彼女は、仕事の面白さに気づき、ビジネスの世界で成功したいと願ってしまった。
その夢を実現するために突き進むが、その道は、苦難の連続だった…。
“最低限”で仕事をこなす、どこにでもいる平凡な女の子でもキャリア女子になれるのか?
―はあぁっ……。仕事なんてやめたい。
梨沙は、もう何千回と呟いてきた独り言を、また心の中で呟く。
月曜日の通勤電車は、いつもより長く感じる。まだ会社に着いてもないのに、家に帰りたくて仕方がなかった。
◆
渋谷にある会社に到着すると、 パソコンの起動中にコーヒーを淹れるのが梨沙の日課だ。
お気に入りのマグカップを両手で持ちながらコーヒーを飲み、去年ソウルで買った色付きリップを塗り直し、いつものように自分を励ます。
―あと、8時間頑張ればいいだけ…!頑張ろっ。
朝一のメールチェックをしていると、見覚えのない差出人から『プロジェクトキックオフのお知らせ』というメールが届いているのに気づいた。差出人を見ると、“katoh@xxx.jp”とある。
―加藤?ってどこの部署の加藤さんだろう?
メールを開くと、“経営企画室”という言葉が目に飛び込んでくる。
―経営企画室の加藤さんということは…、あの、加藤晴人さん!?
テンションが一気に上がる。メールの内容は、経営企画室と人事部が合同で開催する新規事業立案コンテストに向けたプロジェクトのキックオフミーティングのお知らせだった。
加藤晴人は、経営企画室に所属する28歳で、独身。梨沙の4歳年上である。若手のエースと呼ばれ、仕事もでき、顔も良い。仕事では厳しいところもあるようだが、そういうところも良いと女性社員にとても人気がある。
どう返信しようか頭をめぐらせ始めると、上司に呼ばれた。
―もしかしたら、加藤さんからのメールの件かな…?
「おはようございます」と挨拶しながら上司のもとへ駆け寄る。
「倉田さん、おはよう。加藤君からのメールの件、先に言ってなくて悪かったね。人事部からは、倉田さんにプロジェクトに入ってもらおうと思って。参加者を募ったり、会場手配などの運営周りをお願いしたくてね。よろしく頼んだよ」
あの加藤さんと一緒に仕事ができると思うと梨沙の心は少し踊った。
「…はい!」
だが上司に快く返事をしたのも束の間、自分の席に戻りながら、だんだんと憂鬱な気持ちになっていった。
梨沙は、自分の仕事が全く好きじゃないのだ。
この記事へのコメント
とにかく、梨沙が今後どうなるか楽しみです。