マルサンの男 Vol.8

「ソレだけは、生理的に許せない…」彼女との結婚も考えていた男が、女を突然フったワケ

男も女も、誰だって恋愛しながら生きていく。

だから愛するカレには、必ず元カノがいる。

あなたの知らない誰かと過ごした濃密な時間が、かつて存在したかもしれないのだ。

愛するカレは、どんな相手とどんな人生を歩んでいたのか――?

幸せ未来のため、相手の過去を知ることは、善か悪か。

あなたは、愛する相手の過去が、気になりますか?

◆これまでのあらすじ

29才の南美は、6才年上の恋人・数也がプロポーズを考えていると知り、幸せの絶頂にいた。だが同時に、彼の2度の結婚歴がどうにも気になっていく

数也の1番目の妻・竹中桜、そして2番目の妻・福原ほのかそれぞれと密会した南美は、すべての不安を乗り越え、数也と添い遂げることを決意する。

だが交際2年記念日ディナー前、数也からプロポーズされるはずが「別れてほしい」と切り出されてしまい…。


「本当に、私と別れたいの…?」

食前のシャンパンをオーダーした直後、南美は辛抱ならず数也へ尋ねた。

「ああ。ごめんな」

伏し目がちで数也は答えた。南美は声を絞り出す。

「…どうして?」

「俺に黙って、元妻たちと会ってただろ?」

「……」

絶句して、思わず目が泳ぐ。同時に、いつかの雨の日、茉里奈に言われたフレーズがリフレインした。

『バレなきゃいいけど』

気づけば数也は顔をあげ、じっと南美を見据えていた。その目がすべてを物語っている。

会っていない、誤解だよ、と否定する考えすら脳裏によぎらなかった。

「…ごめん。会った」

「俺、そういうの大嫌いなんだ」

数也の語気が強くなった。南美は今、責められているのだ。

「陰でこそこそ嗅ぎ回ったりすることは許せない。軽蔑する」

「うん…。そっか…」

軽蔑。

あまりに重たい言葉だ。恋人に、ましてやプロポーズ予定の相手に、使用する言葉ではない。

別れを告げた数也の気持ちが、いよいよ本物なのだと南美は思い知らされる。

ソムリエがグラスにシャンパンを注いだ。弾けた香りが鼻孔を刺激する。

「どうぞ、まずはご乾杯を」

とても乾杯する気にはならない。南美も、数也も、わずかにグラスを掲げただけで声も出さずに口をつけた。

シャンパンは信じられないほどに美味しかった。

不味かったり、味がしなければ、どれだけ良かったことか。きっとこれから始まるフレンチのフルコースも美味しいだろう。

―美味しいね。

―ああ、とっても美味しい。

プロポーズは当然のこと、そんな日常的な会話すら、もう望めない。

今夜、数也とできる会話は、別れ話だけなのだ。自然と涙が溢れてくる。

「泣かないで聞いてほしいんだ」

数也は、南美にくぎを刺すように、言った。

「泣かれてしまうと、俺も正直に話せなくなる」

南美は叫びたくなる。

―どうして、そんなこと言うの!?

だが堪える。感情的になれば、本当にすべてが終わるとわかっていたからだ。

「…ごめん。そうだよね」

南美は涙をぬぐうが、ぬぐった分だけ目から滲み出る。

「そもそも俺は、南美が思うほど、できた人間じゃない。最低な男だ」

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