女たちの選択~その後の人生~ Vol.10

「子どもはまだ?」デリカシーのない発言に苦しめられた10年…。38歳女の決断とは

「今はもう“子どもは要らない”と堂々宣言しています。だけど当時はなんとなく、そう言い切ってしまうのが怖かったんです。女のくせに母性がないと思われないか、とか、無責任な大人みたいに思われてしまうのが嫌で」

それゆえ加奈は当時、子どもの話題を振られると、曖昧に笑いながらいつもこう答えていた。

「まあ、子どもはそのうち…って感じで」

そもそも「子どもはまだ?」なんて聞いてくる時点でデリカシーがないのだが、その中でもまだマシな人の場合は、この時点でさっと引いてくれる。

しかし問題は、究極にデリカシーのない人が相手だった場合だ。

デリカシーのない発言に、言葉を失った


「あれはいつだったか…。夫が会社の先輩と休日ゴルフに行っていたか何かで、その帰りに家で食事をしていく流れになったことがあって。

二人とも忙しく働いているから、普段からろくすっぽ料理なんてしないんですけど、その時ばかりは私も頑張ったんです。パエリアを作ったんだったかな」

加奈は過去の記憶を探るように遠い目をする。続いて、呆れたように笑いながら、究極にデリカシーのなかった、その先輩の発言を教えてくれた。

「2本目の赤ワインを開けて上機嫌な先輩が、例の質問を口にしたわけです…そう、子どもはまだなの?って」

加奈は内心「出た、デリカシーのない男」と思いながらも、いつもどおり「そのうち…」と答えたという。

しかしその先輩は、加奈の曖昧な答えを聞くや否や「ダメだよ、そんなんじゃ!」と説教を始めたというのだ。

「その先輩、ちょうど第二子が誕生して間もなかったらしいので、特に子どもが可愛くて仕方なかったのかも…絶対に子どもはいた方がいいってしつこく言ってきたり、夫にもっと頑張れとか下世話なアドバイスしたり、挙句の果てには嫁が通ってた病院紹介しようかとか言い出して…」

加奈はもちろん、これには夫も苦笑いするしかなかった。

優しい夫はこの失礼な先輩が帰った後、加奈に本当に申し訳なかったと謝り、さらに怒りをあらわにもしていたという。


この一件があってからというもの、加奈は「子どもは?」という質問に、今までのように曖昧な返事で誤魔化すのをやめた。

「デリカシーの欠片もない人に、どう思われようがもういいやって。その話題になったら、“子どもは要らない”ってはっきり答えることに決めたんです。え?みたいな顔をされることも多いけど、要らないと言ってしまえばさすがに相手も黙るから」

とはいえ最近は、子どもの話題を振られることもめっきり減ったという。

「この年齢になると質問する側も言いづらくなるんでしょうかね?だとしたら、歳取るのも悪くないです」

そう言って、心底おかしそうに笑う加奈。

あの時の選択は正しかったか?…それは誰にもわからない。

しかし一つ確かなことは、屈託なく笑う加奈の表情に、曇りや翳りは一切見当たらないということだ。


▶NEXT:10月18日 金曜更新予定
結婚願望のない彼と付き合って10年…奇跡は起こるのか?

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