「その10年が人生を決める」とも言われる、20代。
大半は自分の理想や夢を追い、自分の欲に素直になって、その10年を駆け抜けていく。
しかし中には事情を抱え、20代でそれは叶わず、30代を迎える者もいる。
この物語の主人公・藤沢千尋も、とある事情から、自分自身を後回しにした20代を過ごし、30歳を迎えたうちの一人。
思い描いていた夢は叶わず、20代を家族のために生きた千尋は、30代で自分自身の幸せをつかむ『シンデレラ』となることはできるのか―?
「32歳のシンデレラ」一挙に全話おさらい!
第1話:「私は、30代に何を願えばいい…?」上京の夢を諦め、地元で30歳を迎えた女の決意
―お母さん…。私、30歳になったよ。
母の死から四十九日。親戚の集まりが終わり、家に帰り着いた藤沢千尋は、化粧を落とそうと洗面台の前に立っていた。先ほどまでの緊張感が緩み、ふいに目に涙がにじむ。涙を抑え込むようにそっと瞳を閉じた。
千尋は、母の死からちょうど1か月後に30歳になった。鏡に映る自分がもう30代に入ったのだ、ということを未だはっきりと認めることができずにいる。ただ20代後半に差し掛かったあたりから、肌や体型の変化はなんとなく感じていた。
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第2話:知らぬ間にみんな既婚者…。30歳の同窓会で突きつけられる、独身“地方女子”の現実
「千尋、郵便が届いていたぞ」
父が差し出したのは、中学時代の同窓会の知らせだった。宛名はクラスの中心的存在だった女子2人。
千尋の出身中学はそれほど優秀でもなくて、真面目で勉強熱心だった千尋はいつも成績上位だった。卒業後、その地区で一番優秀な公立高校にクラスでたった一人進学したこともあり、地元に戻ってきてからも中学時代の同級生とは連絡を取り合っていなかった。
「来月なんだ……」
「久しぶりに懐かしい人たちと会ってみてもいいんじゃないか」
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第3話:「あんなに近くにいたのに…」ハイスぺ男に成長した元同級生。30歳女の淡い期待が消えた夜
ビルを出て時計を確認すると、時間はたったの30分しか経っていなかった。
ふと周りを見渡すと、街を歩く人たちはみんな何かに追われるように急いでいる。どこか行く場所があることが羨ましかった。
京橋駅にたどり着き、千尋は路線図を眺める。今日は泊まることにしていたけれど、面接以外に何も予定を入れていなかった。
そのとき、藤沢さん、と聞き覚えのある声で呼び止められた。振り向くと、先月同窓会で再会した、斎藤が立っていた。
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第4話:「結婚は諦めかけてる…」30歳で上京したOLに婚活を決意させた、同僚美女からの誘い
「藤沢さんは、20代、自分のために時間を使えなかったのではないかと思うのですが、逆に30代で、何をしたいですか?上京の目的など、あれば」
「したいこと……」
千尋の真ん中を捉えるような質問に、思わずつぶやいてしまい、とっさに考えをめぐらせる。
―30代でしたいこと……。結婚?出産?SNSに上げられるような、華やかでキラキラした生活?
考えているうちに沈黙が長引いていき、焦るあまり、千尋はその瞬間、パッと浮かんだことをとりあえず話し始めた。
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第5話:「職場一の美女に似てる」イケメン同僚の言葉に踊らされる、上京2か月目の30歳OL
「出会いの場って、普段は食事会ばっかりなんだけど、たまには違うことも試してみたいじゃない?その方が面白いし。千尋ならわかるでしょ?」
婚活パーティーに誘ってきたとき、茉莉はそう言って笑った。彼女は、30歳から上京してきた千尋のことを、『新しいもの好き』『刺激を求めるタイプ』と思っている節がある。
千尋自身はそんなふうに周りから評価されたことが一度もなかったので、茉莉にそう扱われることが不思議で仕方なかった。
「私、ずっと受け身というか安定志向だと思われてて、というか私自身も思ってるんだけど……」
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第6話:「君ってハイスペ狙い?」婚活パーティで出会った男との、拷問デートに耐える30歳女
「はぁ!?なんなの、その男!」
婚活パーティで出会った男・神田春樹とのデートの報告をすると、茉莉がそう声を荒げた。話を聞いてもらっていた千尋の方が「まあ、落ち着いて」と逆になだめる形になる。
事の発端は、1週間前のことだった。ホテルのラウンジで軽く1杯、ということになり、千尋は仕事終わり、待ち合わせ場所に指定された六本木の『The Bar』に向かう。
しかし高級感溢れる雰囲気にすっかりしり込みしてしまい、“外で待ち合わせて一緒に入りませんか”とLINEを送ってみたのだが……。
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第7話:31歳、お一人様の誕生日を救う男からの誘い。喜んで応じた女が後悔してしまう理由とは
―こんな世界が存在しているなんて……。
昨日、茉莉から急な誘いのLINEが届き、急遽参加を決めた六本木のタワマンでのホームパーティー。
これまでこんなにも急に誘いがくることはなく、さらにはいつもの「行こうよ!」という強引な感じもなかったので、少し違和感はあったものの二つ返事で行くと答えたのだ。
千尋は周囲の人々を見渡す。参加女性は皆一様に若くてスタイルがよく、華やかなファッションに身を包んでいた。
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第8話:「今夜、このあとどうする…?」憧れの男からの誘いを、女が断った理由とは
「変な感覚だよね、こうやって東京で会うなんてさ」
お酒も進み、時間もすっかり夜に差し掛かったころ、運命みたいだと言いたげな口調で良太が話し始めた。
「みんな30代になるともう若くないとか言って行動できなくなるのに、そこからスタートするってすごいじゃん。尊敬するよ」
久しぶりに会った良太はここぞとばかりに褒めちぎってくれるので、お酒が回ってきたことも手伝い、だんだん気分が高揚してくる。化粧を直そうとバッグからポーチを取り出そうとしたとき、千尋は手を不自然に止めた。
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第9話:「妻とは別居中だけど、何か問題ある?」逆ギレした既婚男に、打ちのめされた女
―結婚して、子どももいる…?
千尋は本人からは全く醸し出されなかったその情報に一人絶句していた。
おそらく明日葉が返事に3日を要したのは、きちんと裏をとったからだろう。長い付き合いだからこそ、千尋と良太が男女の関係に進もうとしていることを察知し、やんわりと釘を刺したのかもしれない。
そして、本人に直接確認しようと決意して臨んだ2回目のデート。憧れの人を信じたい気持ちと、自己主張できない弱さから、千尋は切り出すタイミングを結局見つけられなかった。
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第10話:「結局、2人きりになっちゃったね…」初デートの夜に発覚した、好きな男の女性関係
月末、溜まってしまった仕事を片付けるために、千尋は初めて休日出勤した。
以前は土日になれば茉莉に連れられ婚活に勤しんでいたが、今はそんな気分にもなれず、誘いも断ってばかりだ。
―なんか、色々あって、振り出しに戻った感じだな…。
そんなことを思いながら、週末のゆったりした空気の流れる電車に1人揺られて、事務所へと向かう。14時過ぎに事務所につくと、すでに鍵が開いていた。
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第11話:「彼との強烈な2時間を思い出す…」一度はお断りした男の誘いに、女が乗った理由
“幸せになってるのかな…”
初めて2人で飲んだ夜からずっと、速水のつぶやいた言葉が千尋の頭から離れなかった。きっと速水の彼女になるくらいなのだから、性格はもとより、外見も相当な美人であることは間違いないだろう。過去の恋愛話を聞いたことで、逆に速水をより遠くに感じてしまう。
―彼女、長月栞って言ってたっけ…。珍しい名前だし、もしかしたら…。
千尋は身体を沈めていたソファーから起き上がり、スマホを手に取る。そして、大学時代の親友・明日葉にメッセージを送った。
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