32歳のシンデレラ Vol.3

「あんなに近くにいたのに…」ハイスぺ男に成長した元同級生。30歳女の淡い期待が消えた夜

「その10年が人生を決める」とも言われる、20代。

大半は自分の理想や夢を追い、自分の欲に素直になって、その10年を駆け抜けていく。

しかし中には事情を抱え、20代でそれは叶わず、30代を迎える者もいる。

この物語の主人公・藤沢千尋は上京を夢見ながらも、病に倒れた母のため、地元の愛媛で20代を過ごした

しかし30歳で母が他界。悩みながらも、20代に置いてきた上京という夢を追うことに決めた千尋。彼女の決意の先に待っているものとは―?


―なんて高いビルなんだろう……。

いつだったか、東京の街でビルを見上げる人たちは決まって田舎者なのだと聞いた。だから、学生時代の就職活動で街を歩いていたときは、どんなにそのビルの高さに圧倒されても決して見上げることはしなかった。

でも、リベンジとなる今回は、経験のなさや自信のなさを隠すことはあえてしないでおこうと決めた。

20代の頃からの夢だった「上京する」という決断は、リスクを背負いながらも、自分の人生の舵を切る第一歩に思えたのだった。

東京の空はどこに行っても四角くて、ビルに切り取られている。

街を囲むように立つビルを見上げていた千尋はせかせかと歩くスーツ姿のサラリーマンたちに揉まれ、肩がぶつかって少しよろけた。

「すみません……!」

つぶやく声に返す人はいなくて、一人でこの街に乗り込んできたことをふいに意識する。

バッグを肩にかけ直して、転職サイトでエントリーした会社の面接に急いだ。

上京を決意してから、まずは職探しをと、いくつかの転職サイトに登録したものの、実際のところ、思うように転職活動は進んでいない。

これまで週5日、税理士事務所で経理として働いていたが、契約社員という身分だったため、履歴書の見栄えはお世辞にもいいとは言えなかった。

「知り合いをあたってみようか?」

行き詰まる千尋を見かねた父がそう申し出たが、千尋はその提案を断った。

「自分の力でやってみる」

そう告げると、それ以上父はもう口を挟まなかった。

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