32歳のシンデレラ Vol.8

「今夜、このあとどうする…?」憧れの男からの誘いを、女が断った理由とは

「その10年が人生を決める」とも言われる、20代。

大半は自分の理想や夢を追い、自分の欲に素直になって、その10年を駆け抜けていく。

しかし中には事情を抱え、20代でそれは叶わず、30代を迎える者もいる。

この物語の主人公・藤沢千尋は病に倒れた母のため、都会に憧れつつも地元の愛媛に残り20代を過ごす

しかし母が他界したことをきっかけに、30歳にして初上京。そのまま婚活デビューを果たすことに。しかし20代で恋愛をしなかったためか、癖の強すぎる弁護士・春樹に掴まったり、若手にマウントをかけられたりと大苦戦…。

そんな中、31歳の誕生日に高校時代の先輩で憧れの人・良太と食事に行くことになったのだが―。


「変な感覚だよね、こうやって東京で会うなんてさ」

お酒も進み、時間もすっかり夜に差し掛かったころ、運命みたいだと言いたげな口調で良太が話し始めた。

「みんな30代になるともう若くないとか言って行動できなくなるのに、そこからスタートするってすごいじゃん。尊敬するよ」

久しぶりに会った良太はここぞとばかりに褒めちぎってくれるので、お酒が回ってきたことも手伝い、だんだん気分が高揚してくる。

化粧を直そうとバッグからポーチを取り出そうとしたとき、千尋は手を不自然に止めた。

―あっ…。

バッグの底に、速水がくれたレモンゼリーの黄色がチラリと見える。それは、彼からの、さりげなさすぎる誕生日プレゼントだ。

―速水先生、どうして私の誕生日覚えてくれてたんだろう…。

化粧室の鏡の前で、千尋は結局、速水のことを考える。

良太との食事なんだからと、考えないように抑え込んでいた速水の存在は、たったゼリーひとつをきっかけに、一瞬にして頭を埋め尽くした。

―今は良太さんに集中しないと…。

千尋は鏡の前で、目を覚まさせるかのように頬をパンパンと軽くたたく。化粧を直してから、深呼吸をして、良太の待つテーブルへと急いだ。

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