200億の女 Vol.1

女に総額10億円を貢がせた、魔性の男。騙し続けてきた男が最後に選んだ獲物は…「200億の女」

騙されたのは女か、それとも男か?
「恋」に落ちたのか、それとも「罠」にはまったのか?

資産200億の“恋を知らない資産家の令嬢”と、それまでに10億を奪いながらも“一度も訴えられたことがない、詐欺師の男”。

そんな二人が出会い、動き出した運命の歯車。

200億を賭けて、男と女の欲望がむき出しになるマネーゲームはやがて、日本有数の大企業を揺るがす、大スキャンダルへと発展する。


2019年6月 モナコ公国の五つ星ホテル


「还正拍摄。不知道什么时候会结束(まだ撮影中です。いつ終わるか、分かりませんよ)」

ため息をついてそう言った男性は、この後私たちが打ち合わせをすることになっていた中国人女優のマネージャだ。

約束した時間をもう30分も過ぎているというのに、彼は悪びれるどころか、忙しい時に訪ねてきた私たちが悪いとも言わんばかりの高圧的な態度。私はウンザリしたけれど、笑顔を作って言った。

「那么,可以让我们在这里参观拍摄吗?我们没有很急,可以等(では、撮影を見学させていただいても良いでしょうか?私たちは急いでおりませんし、待つ事は問題ありません)」

彼が驚いた顔をしたのは、私が通訳を介さず中国語で答えたからだろうが、気にせず続けた。

「それとも観光でもして、戻ってきた方がいいでしょうか?ここはモナコですし、いくらでも時間を潰せる場所はありますから。…何時間でも、ね」

何時間でも、と宣言したことで私たちが打ち合わせを諦めて帰ることはないと察したのだろう。

「どうぞ」とため息をついて呟いた彼に続いて、撮影中の部屋に入る。もともと貴族の邸宅…というより城だった場所を改装した、五つ星ホテルのスイートルーム。

まばゆいフラッシュ、せわしなく飛び交う中国語の甲高い声に、時折フランス語と英語が混じる。 世界的なラグジュアリーブランドの広告ビジュアルの撮影中だ。

その輪の中心で、白磁の陶器のように艶めいた白肌を惜しげもなくさらし、綿菓子のようなベビーピンクのシフォンドレスに身を包んだグラマラスな女優が、妖艶な笑みをカメラに向けている。

世界のハイブランドが中国市場を狙って中国のスターたちを起用するのは、ここ数年のトレンドでもある。そんな中でも、彼女はハリウッドの大作映画のヒロインとしてブレイクした世界的スターで、その役柄は、ありきたりな表現で言えば、ファム・ファタールだった。

―男を虜にする魔性の女。

役そのもののような目の前の女優に、同性である自分でさえ目が眩む。部屋に漂うルームフレグランスの甘い香りが、まるで彼女の体から放たれているように、この部屋の中の誰もが、彼女に吸い寄せられるように、目が離せないでいる。

グレーのパンツスーツで防御している自分の、女性らしさのかけらもない薄い体を思わず確かめてしまった時、隣に立っていた部下の富田葉子が、苛立ちを隠せない声で言った。

「神崎さん…さっき、神崎さんが社長の娘で、次期社長だってこと、言ってやればよかったです。そうすれば、あの男も少しは態度を改めたんじゃないですか?」

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