—“女”の幸せとは、結婚し、子どもを産み育てることである。
そんな固定観念は、とうの昔に薄れ始めた。
女たちは社会進出によって力をつけ、経済的にも精神的にも、男に頼らなくてもいい人生を送れるようになったのだ。
しかし人生の選択肢が増える=幸せとは、限らないようだ。
この連載では様々な女たちの、その選択の“結果”をご紹介する。初回は、結婚願望が強いという美香(34歳)に話を聞いた。
File1:婚期を逃した女
名前:沢井美香(仮名)
年齢:34歳
職業:証券会社OL
住居:清澄白河
「お待たせして、すみません」
丸の内の仲通りにあるカフェに現れた美香は、口角を上げて涼しげに微笑んだ。
この近辺の証券会社でエリア総合職として働く彼女は、今年で34歳。長身のスリムな体型に艶やかなストレートヘアが美しく、清楚な印象だ。
しかし真正面から彼女を見ると、整った顔立ちではあるもののファンデーションが分厚く塗られており、その肌は明らかに荒れて疲れが滲んでいた。
「......周囲にはそれほど結婚願望はないと言ってますが、本当は今すぐにでも結婚したいです。でも、今さら理想の結婚なんて難しそうですけど」
美香は前触れなく、自嘲気味に語り始めた。
「戻せるなら、10年前に時間を戻したい。そうしたら、何もかもやり直せるのに」
そうしてカフェインレスのコーヒーを啜った彼女は、皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「私、“他人から羨まれる結婚”に執着しすぎたんです。本当に、馬鹿ですよね」