—“女”の幸せとは、結婚し、子どもを産み育てることである。
そんな固定観念は、とうの昔に薄れ始めた。
女たちは社会進出によって力をつけ、経済的にも精神的にも、男に頼らなくてもいい人生を送れるようになったのだ。
しかし人生の選択肢が増えるのは、果たして幸せなことだろうか。
選択の結果には常に自己責任が伴い、実際は、その重みで歪む女は少なくない。
この連載では様々な女たちの、その選択の“結果”をご紹介する。初回は、結婚願望が強いという美香(34歳)に話を聞いた。
丸の内の仲通りにあるカフェに現れた美香は、口角を上げて涼しげに微笑んだ。
「お待たせして、すみません」
彼女はこの近辺の証券会社で、エリア総合職として働いている。
涼しげな白のセットアップに、長身のスリムな体型。色素の薄いストレートヘアには日差しが反射し、絹糸のような光を放っていた。
しかし、真正面から彼女に向かい合うと、遠目で見るのとは少々異なる印象を受ける。
整った顔立ちではあるものの、その肌は明らかに荒れて疲れが滲んでおり、ファンデーションが分厚く塗られているのだ。
アイプチでもしているのだろうか、大きな二重の線も不自然で、どこか痛々しくすら見える。目尻にも細かい皺が散っていた。
いくら綺麗な女でも30歳も半ばになると、やはり相応の年齢が感じられる。
「......周囲にはそれほど結婚願望はないと言ってますが、本当は今すぐにでも結婚したいです。でも、今さら理想の結婚なんて難しそうですけど」
美香は前触れなく、自嘲気味に語り始めた。
「戻せるなら、10年前に時間を戻したい。そうしたら、何もかもやり直せるのに」
そうしてカフェインレスのコーヒーを啜った彼女は、皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「私、“他人から羨まれる結婚”に執着しすぎたんです。本当に、馬鹿ですよね」
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