SPECIAL TALK Vol.51

~自分たちの力で業界を変えたい、そんな思いで医療の世界へ飛び込んだ~

大手メーカーと連携し、世界を相手に勝負する

金丸:さて、医療分野に参入して最初に取り掛かったのが、「Join」の開発でしょうか?

坂野:そうです。私たちがターゲットにしたのは、脳卒中と心臓の急性期疾患です。これらは早く治療することで死亡率を下げ、予後を良くすることができます。医療業界全体をターゲットにすると、市場が大きすぎて何をすべきかがぼやけてしまうので、この一点に集中しました。ITを導入し、発症から治療を受けるまでの過程を効率化して、より早く治療ができるようにしようと考えたんです。そうすれば人の命を救い、医療費の削減にもつながります。

金丸:社会の役に立つ事業とはいえ、医療は参入障壁が非常に高い。それをどうやって乗り越えてこられたのでしょうか?

坂野:まったく未知の分野でしたから、独力でなんとかしようとしていれば、すぐに潰れていたと思います。保険が適用されるにはエビデンスが不可欠ですが、ありがたいことに東京慈恵会医科大学附属病院の協力を得ることができました。「Join」を使った実証実験を行い、アプリを活用すれば治療までの時間を短縮できることを証明しました。

金丸:それからはなんの問題もなく保険が適用されたのですか?

坂野:お陰様で、エビデンスを取ったあとはスムーズでしたね。中央社会保険医療協議会(厚生労働省)にプレゼンすると、その日の夕方にはお墨付きをもらうことができました。諦めなければなんとかなると改めて実感しました。

金丸:坂野さんは、やっぱりポジティブですよね。「医療ってガチガチに規制されてるから」と避ける人は大勢いたと思います。

坂野:それも考え方しだいですよ。規制があるということは、裏を返せば規制のなかであれば、ビジネスをやっていいということなので。

金丸:とはいえ、医療の世界というのは保守的で排他的でしょう?

坂野:最初は営業をかけても門前払いでした。「インターネット? そんなもん、うちがつなぐわけないだろ」という感じで。

金丸:やっぱり(笑)。

坂野:でも最近は病院のほうから声をかけてもらうことが増えてきました。というのも、急性期医療は効果がわかりやすいんです。しかも、アプリなので安価に提供できる。

金丸:では、医療のなかでも急性期疾患に狙いを定めたというのが、一番の勝因かもしれませんね。

坂野:しかも、医療現場で行われていることは世界中どこでも一緒なので、グローバル展開が比較的しやすいんです。患者がいて医者がいて、治療をして使っている医療機器もほとんど同じで。つまり、一つのビジネススキームが世界で通用する。すでにブラジル、アメリカ、ドバイ、ドイツ、チリなど10ヵ国に拠点を作り、ビジネスを始めています。

金丸:グローバル展開は最初から考えていたのですか?

坂野:もちろんです。展開しやすいのに加えて、リスクヘッジという意味合いもありました。保険適用になるかどうかは、大きな賭けです。一度申請して認められなければ、同じ国ではもうチャンスがない。でも世界をターゲットにすれば、もし日本で認められなくても市場はいくらでも広がっています。

金丸:海外での反応はどうですか?

坂野:すでに多くの病院で導入されていて、企業からの問い合わせも急激に増えています。先日、オランダのフィリップス社との資本業務提携を発表したんですが、フィリップスが日本のベンチャーに出資したのは今回が初めてだそうで。

金丸:それは素晴らしい。

坂野:フィリップスは除細動器や心電図のモニターをはじめ、CT周りやエコーなど急性期医療領域の医療機器メーカーとしてグローバルシェア、ナンバーワンなんです。大型機器には抜群に強く、弊社のITソリューションと組めば、シナジー効果でさらに強みを発揮できるだろうと。

金丸:なるほど。ほかに提携している大手はありますか?

坂野:ドイツのシーメンスヘルスケアとも協業しています。これまで自己資金で走り回り、ちょっとしんどいなと思っていたので、ようやくグローバル展開ができる体制が整えられました。

金丸:シーメンスとフィリップスは、競合ですよね。

坂野:そうですね。この2社と提携しているベンチャーは、世界でうちだけかもしれません。でも成長市場の中国では何もできてないですし、まだまだこれからです。

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