
~「どうなりたいか」ではなく「何ができるのか」。豊かな海を取り戻し、未来に引き継ぐために~
2020年のニューリーダーたちに告ぐ
海産物に恵まれていると思われがちな日本だが、年々、漁獲量は減少を続けている。その原因は環境の変化や乱獲による魚の減少が大きく、消費者の魚離れや後継者不足の問題も深刻だ。
将来を不安視しながらも、行動を起こせない漁業関係者が大勢いるなかで、今、日本各地から注目を浴びるのが、山口県の「萩大島船団丸」だ。荒くれ者の多い漁師たちをまとめあげるのは、23歳になるまで漁業とまったく接点がなかったという坪内知佳氏。
幼少期からの体調不良、大学中退、離婚と様々な苦労を経験しながら、坪内氏はなぜ漁業界に革新をもたらすことができたのか。そこには次世代のリーダーたちが学ぶべき哲学がある。
金丸:今日のゲストは、坪内知佳さんです。お忙しいところありがとうございます。
坪内:お招きいただき光栄です。こちらこそよろしくお願いします。
金丸:本日は2018年4月にオープンした中央区新富町の『久丹』でお話を伺います。料理長は三ツ星日本料理店で修業した経験を持つ実力派です。今日は日本各地から仕入れた魚をメインに、日本料理を味わっていただければと思います。
坪内:ありがとうございます。とても楽しみです。
金丸:さて、坪内さんは山口県で漁船団「萩大島船団丸」を結成され、漁業界に新しい風を送り込んでいます。まずは萩大島船団丸についてご説明いただけますか?
坪内:大島は萩市の沖合にある島で、そこで暮らす約60名の漁師で2010年に結成したのが、「萩大島船団丸」です。私たちは魚を市場に卸すだけでなく、消費者への直販を行っていて、獲れたての魚を自分たちで梱包した「鮮魚BOX」を、飲食店や個人のお客様に直接送っています。今では直販も増えましたが、スタートした頃は国内で初めての取り組みでした。
金丸:直販なら、漁師の方が価格決定権を持つことができますね。
坪内:ええ。萩はアジやサバで知られていますが、ほかの魚も混じった状態で水揚げされます。スズキやイサキなどは、そのまま市場に卸しても1箱1,000円程度にしかなりません。でも、「今日、こんな魚が獲れた」という情報をお客様とリアルタイムでやり取りしながら、要望に応じて活け締めして詰め合わせることで、高い値段で売ることができます。
金丸:萩大島船団のビジネスモデルをうちでもやりたいと、日本各地の船団や漁師から相談を受けているそうですね。
坪内:はい。高知県須崎市では船団を結成しました。北海道、福井、鹿児島でも同様の動きがあり、漁師たちに請求書の書き方から販路の開拓まで、あらゆるコンサルティングを行っています。事業の幅を広げていくため、2014年には新たに「株式会社GHIBLI」を設立しました。全国の自治体や船団から視察の問い合わせも多いので、GHIBLIでは旅行代理店の免許を取り、スタディーツアーも企画しています。それに真珠の仕入れ・デザインから加工・販売までを一挙に手がけるジュエリーブランドも立ち上げました。
金丸:ジュエリー販売までとは、バイタリティにあふれるご活躍ですね。驚くべきことに、坪内さんはもともと漁業とはまったく接点がなかったそうですが。
坪内:ええ、まったく。アジとサバの違いもわかりませんでした(笑)。
金丸:そんな坪内さんがどのような人生を歩んでこられて、なぜ漁業に関わることになったのかを伺いながら、日本にとって重要な課題である1次産業の再生と活性化についてもお聞きしたいと思います。どうぞよろしくお願いします。