SPECIAL TALK Vol.51

~自分たちの力で業界を変えたい、そんな思いで医療の世界へ飛び込んだ~

医療参入のきっかけは、「変えられそう」だったから

金丸:ところで、せっかく大きく育った映像配信プラットフォームを、どうして売却したのですか?

坂野:それはテレビ局と一緒に仕事をするうちに、「テレビ業界は時代が変わろうと、自分たちは変わるつもりがないんだな」ということを感じたからです。最近は不動産事業など放送以外で副収入を得ようとしているようですが。

金丸:傍から見ていると、デジタル配信に本腰を入れればいいのにと思ってしまいますよね。

坂野:まさに。ただ、権利関係が複雑だったりと、いろいろな問題やしがらみがあって身動きが取れないんです。本気で変わるつもりがあれば、突破できるのかもしれませんが……。

金丸:難しいでしょうね。

坂野:私もどうせやるなら、自分たちの力で変えられる産業で勝負するほうが面白いし、やりがいもあるなと思い。

金丸:売却したんですね。すでに医療に参入しようと決めていたのですか?

坂野:いえ、具体的には。もちろん何も考えてなかったわけじゃないですけど、家でゴロゴロしていたら、妻に「ずっといられるとストレスだ」と言われまして(笑)。

金丸:そりゃそうだ(笑)。

坂野:その時売却したのは映像配信関連だけで、会社自体は存続していて、エンジニアも50人残っていました。新たに事業を立ち上げるなら、まず自分たちで変えられる産業であることが絶対だったし、それからリーマンショックの際、エンタメ系事業がガタガタになった経験があったので、不況に左右されない産業であることも重要でした。データを調べてみると、不況でもダメージが少なかったのが、教育、農業、そして医療だったんです。

金丸:最終的には何が決め手になったのですか?

坂野:2014年に薬事法が改正されたことですね。これまでなかった「医療機器プログラム」という枠が新たに設けられ、それまでハードウェア込みでなければ保険適用の対象にならなかったのが、ソフトウェア単体でも認可を得られるようになりました。

金丸:これから医療業界に大きな動きがありそうだと考えたんですね。

坂野:はい。新参者であっても、大きなインパクトを与えられるかもしれない。だからここで勝負してみようと、残ったエンジニアのほとんどを投入することにしました。

金丸:そんな大胆な意思決定ができたのは、なぜでしょう? これまでまったく接点のない分野に切り込んでいくことに対して、怖さはなかったのですか?

坂野:そもそも起業に向いている人と、優秀な経営者というのは、必ずしもイコールじゃないと思うんです。起業家にとって一番重要なのは、リスク感の欠如ではないかと。

金丸:そうですね。リスクだけ考えていたら、失敗が怖くて起業なんてできません。

坂野:他者が真似できない圧倒的な技術をもっているなら話は別ですが、私のような普通の人間は、どう考えても負ける率のほうが高い。それでも一歩踏み出そうというのは、リスク感の欠如のなせる業じゃないかと。この時も事業売却で得た26億円をすべて再投資しましたから。

金丸:坂野さん、潔いですね。リスクを分析できる人が起業に向いていないというのは、私も同感です。やらない理由なら、いくらでも見つけられる。先ほど話題に上がったオハイオ州には、実は私も縁があって、1980年代にデイトンという街によく出張していました。飛行機を発明したライト兄弟の生家が残っていて、ゲストハウスになっていたので泊まったこともあります。

坂野:そうなんですか。知りませんでした。

金丸:そのライト兄弟が、もし飛行機が墜落するリスクを考えていたとしたら、飛行機で空を飛びたいと思ったでしょうか?

坂野:少なくとも自分が乗ろうとはしなかったはず。

金丸:そうですよ。墜落するリスクをまったく考えなかったとは思いませんが、飛びたいという願望が上回った。だから大空を飛ぶことができたんです。リスクテイクしなければ成功は掴めません。何よりも「挑戦したい」「変えたい」という強い気持ちがあることが重要なんです。

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