SPECIAL TALK Vol.51

~自分たちの力で業界を変えたい、そんな思いで医療の世界へ飛び込んだ~

2020年のニューリーダーたちに告ぐ

最先端技術が使われていると思われがちな医療の世界。しかしIT化は、まだまだ遅れている。

2014年8月、そんな業界に風穴を開けるスマホ用アプリがリリースされた。病院のシステムに接続し、画像や動画を見ながらチャットでコミュニケーションが取れる「Join」は、一刻も早い治療を要する脳卒中患者などの対応に、抜群の威力を発揮した。

「Join」を開発した株式会社アルムは、当時、医療業界に参入してわずか1年。代表取締役社長を務める坂野哲平氏も、もともと医療とは縁もゆかりもなかった。大きな変化が次々と起こる今、次世代のリーダーはどのようにしてチャンスを掴めばいいのか。

坂野氏の姿勢からその糸口を探る。

坂野哲平氏

2001年、早稲田大学理工学部卒業と同時にスキルアップジャパン株式会社を設立し、動画配信プラットフォーム事業に従事。動画配信事業の売却を機に医療ICT 事業へ本格参入し、15年に株式会社アルムに商号変更。医療機器プログラムの開発から販売までを手がけ、10ヵ国で展開している。同社の医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」は、日本初の保険適用ソフトウェアとなった。

金丸:今日は株式会社アルムの坂野哲平さんにお越しいただきました。どうぞよろしくお願いします。

坂野:お招きいただき光栄です。こちらこそよろしくお願いします。

金丸:本日は港区南青山の『鳴神』をご用意しました。和とフレンチを融合させた斬新な料理の数々をお楽しみください。実は私のお気に入りの店で、本当はあまり人に教えたくなかったのですが(笑)。

坂野:そうなんですか。とても楽しみです。

金丸:さて、坂野さんはソフトウェアとして日本で初めて保険適用を受けたスマホアプリ「Join」を開発するなど、ITの力で医療現場を改革しようとされています。まず読者のために、簡単に「Join」の説明をしていただけますか?

坂野:はい。一言で言うと、主に医師が利用する、LINEと同じようにクローズドなチャット形式のコミュニケーションアプリです。

金丸:病院ではいまだにPHSで連絡を取っている光景も見られますよね。

坂野:PHSの通話は1対1で、しかも音声でしかやりとりできません。なので、これまでは「脳障害の疑いがありCTを撮ったのですが、こんな具合で……」と、言葉で説明するしかありませんでした。

金丸:それではなかなか伝わらないでしょう。

坂野:脳卒中や心筋梗塞などの急性期疾患は、時間との闘いです。「Join」は医療機関のシステムと接続されているので、CTやMRIの画像や心電図を見ながら症例について検討し、素早く判断を下すことができます。

金丸:それは素晴らしいですね。

坂野:院内の情報をスマホで全部把握できることが、大きなメリットの一つで、手術室のカメラ映像をリアルタイムで確認することもできます。また一つの病院だけでなく、地域全体での連携も可能です。症例の相談や患者の紹介が普段から容易にできるだけでなく、救急搬送も複数の病院間で情報共有しながら効率的に行うことができます。

金丸:ということは、「そちらで受け入れ可能ですか?」と病院に一軒一軒、連絡しなくても済むんですね。

坂野:そうです。現在は医師用の「Join」のほかに、看護師や介護士のためのアプリや医療情報を連携させるシステムなど、医療に関係するモバイル用システムを開発・提供しています。

金丸:坂野さんはもともと医療に従事していたわけではないそうですが。

坂野:医療分野に参入して、まだ4年ほどです。

金丸:そんな坂野さんが、これまでどのような人生を歩み、医療に行き着いたのか。今、医療業界がどう変わろうとしているのかも合わせて、じっくりお話を伺いたいと思います。

父の転勤で渡米するも、英語は4年間理解できず

金丸:早速ですが、お生まれはどちらですか?

坂野:三重県の鈴鹿市です。

金丸:鈴鹿サーキットが有名ですね。

坂野:小学5年生までは鈴鹿ですが、本田技研工業株式会社に勤めていた父の転勤で、高校卒業までアメリカで過ごしました。

金丸:アメリカのどちらに?

坂野:中西部のオハイオ州です。朝起きて窓を開けると、水平線が広がっているような片田舎に住んでいました。もともと「人種のるつぼ」といわれている国なので、いろんな人が引っ越してくるのが当たり前で、私も引っ越してきて5分後には、"ピンポン"とドアのベルが鳴って、「一緒に遊ぼう」と誘われました。

金丸:オープンな土地柄だったんですね。実はこれまで対談させていただいた方には、日本に戻って起業した帰国子女が結構いらっしゃいます。しかも、海外では田舎に住んでいた方が多いんですよ。日本とはまったく違う環境で育つことが、起業家にとって必要な素養を育むのかもしれません。

坂野:でも大変でしたよ。中学校を卒業するまでの4年間、英語が全然わからなくて。

金丸:4年間って、かなり長いですね(笑)。

坂野:なんでしょうね(笑)。でも高校に入って、堰を切ったかのように全部わかるようになりました。中学までは数学と図工以外はオール1でしたが、高校ではオール5に。

金丸:極端すぎます(笑)。

坂野:英語はわかんないものだと思っていたから、脳の機能がシャットダウンしていたのかもしれません。

金丸:ご両親に心配されませんでしたか?

坂野:両親はそれどころじゃなくて。母も英語がだめだったから何もできないし、父は父で忙しく。でも4歳年上の兄は頭が良くて、1年目から普通に授業についていってました。兄弟でずいぶん差があるなと(笑)。

金丸:中学時代は全然英語がわからなかったのに、学校には通い続けたんですよね。ストレスは感じなかったのですか?

坂野:なかったです。できることといえば、とりあえず座って授業を受けるくらいでしたから。ただ高校でオール5といっても、アメリカの公立中高は日本より教育水準が低いんですよ。

金丸:しかし、日本の教育は相変わらず暗記重視だし、社会ではほとんど役に立たない奇問・難問ばかり出題されます。そんなことはやめて、生きていく力を教えたほうがいいのに。

坂野:インターネットがこれだけ普及した時代では、暗記なんてますます必要ありませんよね。検索すれば答えがすぐ出てきますから。

金丸:北欧の教育では、もう記憶力を捨てています。彼らが重視しているのは、課題を抽出して解決する力。あとは個人の能力を高めつつ、チームで解決するためのコミュニケーション力と、ITを正しく活用できるようにリテラシーを磨くことなんです。

坂野:アメリカの高校でもディベートの授業がありました。そういう意味では、日本と違う教育環境にいたのは確かですね。

【SPECIAL TALK】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ
Appstore logo Googleplay logo