2018.10.20
SPECIAL TALK Vol.49大学教員でありながら、前例のない博士課程入学
金丸:ところで、冨田さんが日本に帰って来られたのは、何がきっかけだったのでしょう?
冨田:慶應の湘南藤沢キャンパス(SFC)が1990年に開設される際、「日本にこれまでにない夢のようなキャンパスを作るから来てくれ」と誘われて、環境情報学部のコンピュータ関連の助教授として着任しました。
金丸:AO入試や学生による教員の評価など、今ではどの大学も実施していますが、SFCはその先駆けでしたね。
冨田:そうですね。実は慶應でも教員をしながら医学部の授業を取ろうとしたのですが、「教員が授業を取るような制度はありません」と受け入れてもらえなかった。授業を履修するには、正式な学生になる以外になくて、医学部の博士課程を受験することにしました。それが1994年、36歳のときです。
金丸:なぜ医学部を受験しようと思ったのですか?
冨田:生物学会では生命科学分野の博士号を持っていないと、まともに相手にされなかったからです。私はコンピュータを使った細胞のシミュレーションや、データベースにあるゲノムを解析してデータマイニングする分子生物学の研究などを発表していたのですが、ご年配の大先生たちから「こんなのは生物学ではない」とよく批判されまして。
金丸:それはなぜですか?
冨田:当時の学会には「手を動かして実験して自分でデータを出すことが生物学の本質だ」という雰囲気があり、データベースにある他の研究者のデータを使った私の研究は、「他人のふんどしで相撲を取っている」と怒りだす先生もいました。
金丸:でもデータベースですよね。活用しないと意味がない。
冨田:私に直接言ってくる人は、まだいいほうです。私のいないところで私の学生に「君ね、こういう研究やっても将来はないよ」とか「生物学の世界では、絶対に受け入れられない」とか言う人もいて。
金丸:それはたちが悪い。
冨田:根本には「コンピュータ屋が偉そうに、生命科学に手を出している」と思われたのでしょうね。私自身は別にそう思われてもよかったし、これからは生命科学にもITの波が確実に押し寄せるのにそれが理解できないなんて、むしろかわいそうな人だなと思ったくらいです。
金丸:しかし、学生さんは違います。やる気が削がれてしまう。
冨田:泣いてしまう学生もいましたよ。そんな状況を変えるために「うちはバイオの研究室です」と堂々と名乗れるようにしたかった。そのためには研究室のボス、つまり私に生命科学の博士号が必要だと考えました。
金丸:受験勉強は大変でしたか?
冨田:第二外国語のフランス語が危なかったですね(笑)。でも試験には合格し、入学金と授業料を4年間きっちり払って、医学博士号を取得しました。それ以降は、学会での風当たりも弱まりました。
山形県鶴岡市から、世界が注目する研究を発信
金丸:その後、2001年には、山形県鶴岡市に新設された慶應義塾大学先端生命科学研究所(IAB)の教授兼所長に就任されます。IABは独創的な研究を次々に発表し、今や世界的なブランドになりつつあります。
冨田:鶴岡という場所がよかったですね。鶴岡まで来て研究しようという人は、モチベーションが高い人ばかりです。中途半端な気持ちの人は来ないから、いないのですよ。この立地が、ちょうどいいハードルになりました。
金丸:冨田さんは設立からずっと所長をされていますが、次世代へのバトンタッチはうまくいきそうでしょうか?
冨田:面白い人材はたくさん育っています。今は国内外の大学や研究所で、経験を積んでいるところですね。私の引退後も必ず彼らがIABをさらに発展させてくれます。
金丸:IABの若い研究者の方々のプレゼンを何度か聞いたことがあるんですが、一筋の光が見えるような気がします。実際にIABからは、いくつもベンチャー企業が生まれていますし、発想がズバ抜けて面白いですよね。
冨田:ありがとうございます。
金丸:冨田さん自身が創業されたヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ社は、今や社会問題となっているうつ病の診断を血液検査で行える研究をされています。それから、クモの糸に着想を得た次世代素材を開発しているスパイバー社には、本当に驚かされました。
冨田:実は、クモの糸のアイデアは飲み会で生まれたんですよ。
金丸:えっ、そうなんですか?
冨田:私は常々「独創的なアイデアは、会議室ではなく酒席から生まれる」と言っています。会議室だと突拍子もないことを言うとバカにされるので、みんな優等生的な意見しか言いません。クモの糸の話も、もし会議室だったら「NASAやアメリカ国防省がこれまで散々やってできなかったのだから、できるわけないだろ?」と言われて終わりだったでしょう。
金丸:でも飲み会の席なら、言いたい放題ができる。
冨田:そうなんです。IABの所長になってから18年間、「普通じゃないことをやろう」と言い続けてきました。酒席はそのために重要なファクターなんです。
金丸:世界が注目する独創的なアイデアは、こうやって生まれたんですね。IABの若い人たちのような独創的なアイデアを生み出すイノベーターが、日本にはまだ少ないと感じています。挑戦する気概のある人は少数派で、有名大学の学生でも地方公務員指向がとても強い。
冨田:公務員になるのが悪いとは言いませんが、本当に自分に合った職種だと強く信じてやれるかどうかが大事なんです。なんとなく安定していそうだから、ではなく。
金丸:世界では熾烈なイノベーション競争が繰り広げられているのに、残念ながら日本は大きく取り残されています。こうした状況を打ち破るためにも、小学校の1クラスのうち、3人くらいの変わり者がそのまま育ってくれれば、日本も随分変わると思うんですが。
冨田:人と違うことをすることが好きな子どもたちは、日本の宝かもしれません。その3人をどうやって普通の優等生にしないように、まわりの大人たちから守っていくか、が重要ですね。文科省は教育政策をいろいろと転換させてきましたが、全国一律に変えてしまう。それが大問題だと思うんです。子どもはみな同じではありません。「ゆとり教育」で伸びる子もいれば、「詰め込み教育」で伸びる子もいる。子どもたちのことを第一に考えるなら、いろいろな選択肢を用意すべきではないでしょうか。
金丸:全くその通りです。一人ひとりの「好き」を伸ばしていく環境こそ必要だと思います。
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