SPECIAL TALK Vol.49

~コンピュータから生物学へ。自分の出番を見極めたから、ここまでこられた~

2020年のニューリーダーたちに告ぐ

山形県鶴岡市にある慶應義塾大学先端生命科学研究所は、バイオテクノロジーの分野で世界トップクラスの研究所であり、「血液検査によるうつ病診断」や「人工のクモの糸を使った新素材の開発」など、独創的なベンチャー企業を生み出している。

設立から18年間研究所を率いてきたのは、所長の冨田 勝氏だ。人工知能の研究者としてキャリアをスタートさせたが、生物学の面白さに目覚め、大学教員を務めるかたわら36歳にして医学部に大学院入学するなど異色の経歴を持つ。

冨田氏の半生を振り返りながら、変化の大きな時代でニューリーダーたちがどう生きるべきかを学ぶ。

冨田 勝氏

慶應義塾大学工学部数理工学科卒業後、米カーネギーメロン大学コンピュータ科学部大学院で修士・博士課程を修了し、同大学で自動翻訳を研究。1990年帰国し、慶應義塾大学環境情報学部助教授に就任。94年には現職助教授のまま同大学医学研究科に入学し、博士課程を修了。2001年、新設された同大学先端生命科学研究所教授および所長に就任。慶大発バイオベンチャー企業、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ社を創業した。

金丸:本日は慶應義塾大学先端生命科学研究所所長の冨田 勝さんをお招きしました。お忙しいところ、ありがとうございます。

冨田:こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。

金丸:今日は対談場所として、品川区五反田の『ヌキテパ』をご用意しました。フランスの複数の三ツ星レストランで修業されたシェフは、スポーツ界から料理の道へ入ったというユニークな経歴をお持ちです。旬の素材の魅力を引き出した、伝統的であり独創的でもあるフランス料理をご堪能いただきながら、お話を伺えたらと思います。

冨田:料理もとても楽しみです。

金丸:早速ですが、冨田さんのお父様は大河ドラマや手塚治虫のアニメをはじめ、多くの曲を残された作曲家・冨田 勲さんでいらっしゃいますね。

冨田:はい。ただ、もともと冨田家は医者の家系で、今も愛知県の岡崎市に病院があります。長男だった父は医者を継がずに東京に出て、音楽の道に進んでしまったので。「長男の長男である勝君は医者を目指さないのか」、と親戚に言われました。

金丸:白羽の矢が立った?

冨田:ええ。中学生のときでした。私は幼稚舎から慶應義塾だったのですが、医学部に進学するためにはかなりの優等生で成績優秀でなければならない。勉強が嫌いだった私はそんなの嫌だと思って、好きなコンピュータの道に。

金丸:家柄は全然違いますが、勉強嫌いなところは同じですね(笑)。

「我慢して勉強」していたら、研究者の道は閉ざされていた

金丸:お父様は進路について、何かおっしゃいましたか?

冨田:父は自分がわが道を進んだので、私の進路に一切口を出しませんでした。

金丸:音楽家になってほしいとも?

冨田:英才教育は受けましたよ。3歳から有名な先生に師事して、バイオリンとピアノを習いました。ただ父が見誤ったのは、私にクラシックを習わせたことです。クラシックって楽譜通りに弾くのが基本で、ここは弱くとか段々速くとか指示が全部書いてある。そこに自分の創造性を出す余地がゼロなんです。それが本当につまらなくて。多少のアドリブありのエレクトーンとかジャズピアノなら好きになっていたかも。

金丸:いつまで続けたのですか?

冨田:小学4年生です。親の期待を感じていたので嫌だと言えなかったんですが、さすがに我慢できなくなり、「やめたい」と。そしたら、すぐにやめさせてくれました。

金丸:お父様もご立派ですね。無理やりやらせることはしなかった。しかし、冨田家はお父様、冨田さんと二代続けてイノベーターを輩出しています。それは冨田家のDNAなのでしょうか?

冨田:私の場合、慶應という環境が合っていたんだと思います。高校生の多くが大学受験に膨大なエネルギーと時間を注ぎますが、慶應はエスカレーター式なので受験勉強をする必要がありません。それに受験のためには、5教科7科目全部で点を稼がなければならない。それこそ「苦手科目を優先して、我慢して勉強しろ」なんて言われていたら、相当疲弊したと思うし、勉強が嫌になって研究者になろうとは思っていなかったでしょう。

金丸:「得意科目は十分に点数が取れるから、もう勉強しなくていい」というのは、大学受験でよくある指導ですが、それだと子どもの知的好奇心を完全に削いでしまいます。もったいないですよね。ところで、勉強以外で、スポーツはいかがでしたか?

冨田:中学1年生のときに馬術を始めて、高校時代は国体に2回出場しました。関東大会では個人総合で準優勝したんですよ。

金丸:趣味も多彩ですね。馬術を始めたのは、何がきっかけで?

冨田:「ほかの人がやらないから」というのが入り口だったと思います。

金丸:みんながやらないことが、昔から好きだったんですね。

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