SPECIAL TALK Vol.49

~コンピュータから生物学へ。自分の出番を見極めたから、ここまでこられた~

コンピュータを学ぶきっかけは「スペースインベーダー」

金丸:その後、慶應義塾大学の工学部数理工学科に進学されますが、コンピュータを専門にしたきっかけは何だったのですか?

冨田:実は、インベーダーゲームなんです。大学生のときに大変なお金と時間を費やして、名人級の腕前を身につけました。「東京六大学スペースインベーダー大会」にも、慶應の代表として出場しました(笑)。

金丸:六大学はそんなこともやっていたんですか(笑)。

冨田:あのゲームは名人級になると、永久にゲームオーバーにならず100円で何時間でも遊べます。だから普通にやっても面白くないので、ギャラリーを沸かせるようなプレーに挑戦しました。手を使わないで足でプレーしたり、あとはインベーダーの残像が残る「レインボー」というバグがあるので、それを見せて拍手をもらったり。

金丸:冨田さんは、はまったら何でも徹底的にやるんですね。

冨田:インベーダーゲームも改良したらもっと面白くなるのになあ、と思ってゼミの先生に聞いたら、「マイクロコンピュータでできているんだよ」と。驚きました。それまで「コンピュータはつまらない」と思っていたから。

金丸:なぜつまらないと思っていたのですか?

冨田:大学2年のときに情報処理実習という必修科目があったんですが、頑張ってプログラムを書いて、円周率下4桁まで計算したのに、プリンターから出てきたのは、数字が1行だけ。何が面白いんだろうと思いました。

金丸:当時は、入力もパンチカードを使っていましたよね。「穴の空いた紙でコンピュータに計算させていた」と言っても、今の若い人は信じられないでしょうが。

冨田:でも「スペースインベーダー」に出合って、コンピュータのことを一から勉強したくなり、当時最新鋭だった「AppleⅡ」を買いました。

金丸:そういえば、冨田さんは「Apple漢字システム」でかなり注目を浴びましたね。「学生がパソコンで漢字を出力できるシステムを開発したらしいぞ」と聞いて、びっくりしたのを覚えています。そういう世界初の画期的なシステム作成のきっかけが、「スペースインベーダー」だったとは(笑)。

人工知能の研究者になるも、その限界を感じる

金丸:さて、大学卒業後はどうされたのですか?

冨田:アメリカのカーネギーメロン大学のコンピュータ科学部で博士号を取り、しばらくはそこで教員をしていました。

金丸:ご専門は?

冨田:人工知能です。鉄腕アトムみたいなロボットを作りたかったんですよ。でも当時は自動翻訳の研究をしていました。今でこそいろいろな言語の翻訳ソフトが普及していますが、翻訳ってかなり奥が深いんです。直訳ならその頃でも可能でしたが、こなれた意訳をしようとするとハードルが急激に上がる。

金丸:今でも自然な訳文って、難しいですよね。

冨田:意訳するためには、まず与えられた文章を理解し、次にそれを外国語で作文する必要があります。ところが、この「文章を理解する」というのが難しい。その背景となる一般常識や文化まで含めて知っていないと文章を理解できないからです。

金丸:最初のステップでつまずくわけですね。

冨田:何年か研究していると、音声認識や画像処理といった人工知能が得意な分野もあれば、苦手な分野もあることがわかってくる。さらには、まったく歯が立たないんじゃないかと感じる分野も。

金丸:翻訳もそのひとつだと?

冨田:そうです。人間と同じような思考システムは、いつになったらできるんだろうと、研究者の仲間とよく話していました。50年先という人もいれば100年先という人、永久に無理だという人もいて、自分が生きているうちに鉄腕アトムができるのは、無理そうだなと感じていたとき、「ヒトゲノム計画」が始まることを知りました。1989年のことです。

金丸:人間のDNA配列を解読する計画ですね。

冨田:DNAは生命の設計図ですが、その配列は、アデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、グアニン(G)という4種類の物質の並び方で決まります。ヒトの場合、この物質が30億個並んでいる。言い換えると、ヒトの設計図というのは、4種類のアルファベットが30億文字並んだ暗号文なのです。その膨大な文字列を2015年までに明らかにするというのが、ヒトゲノム計画でした。私が強く興味を引かれたのは、その目標年。「2015年だったら、まだ自分も現役だな」と。実際には2003年にヒトゲノム計画は終了しました。

金丸:なるほど。ヒトゲノムなら、自身が大きな転換点に立ち会えるかもしれない。そう考えたんですね。

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