東京には、全てが揃っている。
やりがいのある仕事、学生時代からの友だち、お洒落なレストランにショップ。
しかし便利で楽しい東京生活が長いと、どんどん身動きがとれなくなる。
社会人5年目、27歳。
結婚・転勤など人生の転換期になるこの時期に、賢い東京の女たちはどんな決断をするのか?
東京の荒波をスマートに乗りこなしてきたはずの彼女たちも、この変化にはうまく対応できなかったりもするのだ―。
<今週の東京女>
名前:貴美子
年齢:27歳
職業:保険会社 総合職
年収:650万円
実家:後楽園
File1:貴美子の場合
「貴美子の東京帰還を祝して!かんぱーい!」
土曜の夜、新丸ビルの『Le REMOIS』。大学のテニス部同期のみんなが、大声で祝ってくれた。
「ちょっと声大きいから!」とたしなめながらも、思わず頬が緩む。
同期の皆の顔を見るのは、本当に久しぶりだ。
保険会社の総合職として就職し、1年目の終りに仙台支店に異動してから3年。今年の9月からやっと東京に帰って来られることになった時は、実家にいる家族や愛犬、そしてこのテニス部のメンバーの顔が真っ先に浮かんだ。
人にテリトリーがあるなら、丸の内が、私のホーム。学生時代から母とよくランチや買い物に来たが、就職してからはいっそう馴染みのある街になった。
行き交う人々の多言語での会話、丸ビルに上れば南に鎮座する東京タワー。
見慣れたその光景に、高揚はしない。地方出身者が田舎の空を見ると懐かしく心がほぐれるのと同じことだ。
「貴美子、彼とは順調?」
部内一の癒し系美女、春奈が尋ねる。
その薬指には、カルティエのエタニティリングがキラキラと光っていた。足元はレペットの赤のバレエシューズ。上質そうな薄手の白ニットの中で体が泳ぎ、なんとも女らしい。
春奈の言葉に、皆が一斉にこちらを向く。私は一瞬、答えに詰まった。
この記事へのコメント
2、3年毎に引っ越してしまうので「故郷」とか「地元」って感覚がない。生まれたところに初めて住んだのは「転校が難しいから」と祖父母に預けられた高校生でした。そういや入学式と卒業式を同じ学校で迎えたのがすごい新鮮でした。
で、大学進学でまた別の土地へ。就職はまた全然よそへ。おかげさまで「どこに行っても生きていける」自信だけはついてました...続きを見るから、生まれ育った土地を離れて暮らす同級生が「怖い」と言うようなことはなかったし、いく先々に友達がいるというのは嬉しいです。でもどうしたって疎遠になるし、小学生の頃の友達はもはや名前も顔も覚えていませんから、保育園から幼稚園から一緒の幼馴染みなんていうのはちょっと羨ましいです。