
独身オンナが黙ってない:「ただ、結婚してないだけなのに…」。33歳女を待ち受ける、独身ハラスメント
幸せからの、転落
「…ご、ごめん直人、今、なんて言った?」
目黒駅近くのカフェで、莉央は思わず、椅子から転げ落ちそうになった。婚約者の直人が、たった今、耳を疑うような言葉を口にしたのだ。
「だから、俺と別れてほしい。結婚も、なかったことにしてほしいんだ」
「ちょ、ちょっと待ってよ…!」
莉央は勢い余って、人目も気にせず立ち上がる。
「いくら家族のみの小さな式とはいえど、結婚式は2週間後よ!?一体、何があったの?」
「本当にゴメン…。他に好きな子が、できたんだ…」
—う、嘘でしょ…?
確かに数週間前くらいから、結婚式が迫っているというのに、直人からの連絡は以前に比べて激減していた。少しおかしいとは思っていたものの、莉央も仕事に追われて深いことを気にする余裕がなかったのだ。
「前からずっと考えてたんだ。莉央は本当に俺と結婚したいのかなって。婚約してからも莉央は仕事ばっかりで生活のリズムも全然変えてくれないし、転職だって勝手に決めてたし…。それで悩んでる間に、今の彼女に出会って…」
—この人は一体、何を言ってるのかしら…?
莉央が仕事人間なのは今に始まったことではないし、転職の話だって、莉央自身も驚くほど急に決まったことだったのだ。それに、確かに言葉での愛情表現は苦手だけれど、莉央なりに直人を愛していたつもりだった。
「結婚式のキャンセル料はもちろん俺が払っておく。それから、コレ…。傷つけてゴメン…」
そう言って直人はおずおずと厚みのある封筒を差し出した。中からは、札束が覗いている。
「バカにしないで!お金で解決できると思わないでよ!こんなもの、いらないわよ!」
そう叫ぶと、莉央は泣きながらカフェを飛び出したのだった。
◆
それから1ヶ月、莉央は死に物狂いで仕事をした。
ちょうど展示会シーズンと重なって、毎日やることがどんどん積み重なっていく状況に、これほど感謝したことはない。直人との過去を振り切るように、莉央は仕事に夢中になったのだった。
「莉央さん、明日午後イチのアポイントは、取引額が最も大きい百貨店ですので、よろしくお願いします」
前回の展示会は莉央の入社直前の開催だったため、今回が、莉央にとってはこのブランドでは初の展示会だ。
「わかりました。亜樹さん、ありがとう」
「ここのバイヤーがね、前まではかなり横柄な人だったんです。女を見下すタイプ。その人が退職して、新しい担当になった子がすっごくイケメンなんですよ〜」
亜樹は嬉しそうにそんなことを言いながら、展示会用の資料を準備している。そのとき、社長がピンヒールを鳴らしてオフィスに現れた。
「みんな、ちょっといいかしら。明日からいよいよ展示会も始まるけど、重要な話があるの」
この記事へのコメント
未婚だろうが既婚だろうが、若かろうが高齢だろうが、人としての魅力は各自個人差ありまくり。簡単に線引きできないよ。