
独身オンナが黙ってない:「ただ、結婚してないだけなのに…」。33歳女を待ち受ける、独身ハラスメント
結婚していないというだけで、“人として問題がある”のか?
「莉央さん、迷惑かけてしまってすみません」
電話を終え、再び自分の仕事に戻った莉央のもとに、仲野亜樹がそっと近づいてきた。
「ええ、大丈夫。説明したらわかってもらえたから。でも怒ってるお客様にメルマガを解除しろなんて言うのは火に油を注ぐようなものだから、言い方は気をつけたほうがいいと思う」
莉央が穏やかな口調でそう言うと、亜樹はがっくりとうなだれたまま小さく頷いた。
「はい…。次回からは気をつけます」
莉央がブランドマネージャーを勤めるのは、「Noemie(ノエミー)」という高級レディースブランドだ。
社員数は30名程度と、決して大きくはないが、今飛ぶ鳥を落とす勢いで売れているアパレルブランドである。
新卒以来、大手アパレル企業で働いてきた莉央が、現在勤める会社の女社長と知り合ったのは、出版社主催のパーティーだった。
フランス人の父と日本人の母を持つ女社長は、12年前に独立して現在のブランドを立ち上げた。社長からブランドマネージャーとして引き抜きの打診を受けた時、ブランドの勢いと将来性、大幅な年収アップに魅力を感じた莉央は二つ返事で承諾したのだ。
そして入社して、半年が過ぎようとしている。
◆
「…それで、独身ハラスメントにあった、だなんて、一体どういう事?」
東京ミッドタウンの『ナプレ』でランチをしながら、莉央は亜樹に向かって聞き返した。
クレームの一件の後、肩を落としている亜樹を見かねて、ランチにと誘い出したのだ。
亜樹は、莉央より3歳年上の36歳だが、ポジション的には部下にあたる。
「さっき、お客様にすごく嫌なこと言われたんです。“独身のあなたにこの話は通じないから、別の人にすぐにでも代われ”って。そんな発言されて、ついカッとなって…」
「そうだったの…。それにしても“独身ハラスメント”だなんて。気にしすぎよ、亜樹さん」
励ますつもりで笑顔を向けると、亜樹は先ほどまでの剣幕はどこへ行ったのか、どこか遠いところを見つめている。
「まあ、莉央さんにはわからないか…。私より3つも若いし美人だし…何より、まもなく結婚するんだもの。今後の人生、幸せが保証されてるものね」
亜樹は深いため息をついた。確かに莉央は、5年間付き合った恋人と、2週間後に結婚することが決まっているのだ。
「でも亜樹さん…。結婚が幸せの全てってわけじゃ…」
そう言い終えるよりも先に、亜樹がキッと睨みつけてきた。
「こっちはそう思いたいけど、あいにく世の中の大半の人は、“結婚が幸せの全て”って価値観を押し付けてくるんですよ」
莉央が腑に落ちない顔をすると、亜樹は肩をすくめる。
「独身女はね、ただそこにいるだけで、まるで人として問題があるかのような扱いを受ける。それが現実なんです。幸せ絶頂の莉央さんには、理解できないか」
投げやりな口調でそう言った亜樹の言葉に、ふと疑問を抱く。
—確かに彼と結婚することは嬉しいし、幸せだけど…。結婚だけが幸せの形だなんて言い切れるのかな…?
そんな小さな違和感が、胸の中でくすぶっていた。
だけど、亜樹から「幸せの絶頂」とまで言われたこの日の夜に、まさかとんでもないドンデン返しが自分を待ち受けているとは、想像すらしていなかった。
この記事へのコメント
未婚だろうが既婚だろうが、若かろうが高齢だろうが、人としての魅力は各自個人差ありまくり。簡単に線引きできないよ。