アラサー女の大逆転。“彼好み”に合わせるばかりだった凡庸な女が、ハイスペ紳士を射止めるまで
「もう、誰にも遠慮しない」
玄関横に置いた姿見の前で、芽衣は機嫌よく、くるりと回った。
YOOX(ユークス)でオーダーしていたアイテムが、この週末にさっそく届いたのだ。
シンプルながら、美しいシルエットがインポートらしいLANVINのワンピースと、セルジオ・ロッシのパンプス。
週明けの仕事には、この組み合わせで行こうと心に決めていた。
「うん、やっぱ似合うっ」
浮かれた独り言が、思わず声に出てしまう。
好みの服を身に纏うときの高揚は、女にとって恋にも勝るときめきの瞬間なのだ。
−俺の好きな服を着て欲しいな。
鏡に映る自分を見つめて、「かつて、そんな野暮なことを言ってきた男がいたな」などと考えながら、芽衣は遠い目をした。
長谷川は、仕事へのスタンスやビジネスセンスなど、尊敬できるところのある男だった。
しかし独りよがりに“俺好み”を強要する、その傲慢さだけはどうしても受け容れられない。いや、受け容れてはいけないと思った。
「私はもう、誰にも遠慮しない」
芽衣は自分に言い聞かせるようにしてそう小さく呟くと、勢いよく玄関ドアを開ける。
そして背筋を伸ばし、清々しい思いで駅までの道を歩きながら、芽衣は心の中で、ある覚悟を決めていた。