女なら、経験のある方も多いだろう。
恋人にファッションをダメ出しされ、“俺好み”を強要されてしまうこと。そして愛されたいと願うあまり、自分の趣味を押し殺してしまうこと。
総合商社勤務の芽衣(31歳)もまさに今、葛藤を抱えている。
ー私、“彼好み”になれない。ー
というのも彼は、こだわりのある最新のデザインを好む芽衣に対し、凡庸な女子アナ風ファッションを強要するのだ。
あなたなら、恋人のために好きなファッションを諦めますか…?
運命の出会い
金曜、19時。
芽衣は慌ててオフィスを飛び出し、タクシーを拾った。
今日の食事会は、恵比寿に19時半。...このまま車がスムーズに動けば、余裕で間に合うだろう。
後部座席に身を沈めて、ふぅと小さく息を吐き、バッグから手鏡とリップを取り出した。
普段使っているバーガンディーではなく、好感度抜群なピンクベージュの口紅を。
手早く化粧直しを終えると、今度は身だしなみのチェック。
普段は滅多に選ばないラベンダーカラーのフレアスカートを着ているものだから、どうにもソワソワと落ち着かない。
けれども「モテ服で来い」というのが、今夜の女性側幹事からの指示なのだ。なんでも今回の男性陣は幹事的にかなりのおすすめ物件らしく、最初のお誘いLINEからも、彼女のそこはかとない気迫が感じられた。
内心、面倒だなぁと思っていた。
しかしながら芽衣は、この後すぐに心を改めることとなる。
なぜならこの日の食事会がきっかけで、芽衣は運命の出会いを果たしたのである。
しかもその相手は、IT系スタートアップ業界で期待のホープと噂されるイケメン、長谷川剛(はせがわ・つよし)。芽衣も名前だけは知っている、ちょっとばかり有名な男だったのだ。
◆
その翌日。
食事会での席は離れていたにも関わらず、彼のほうから芽衣にLINEが届いた。
“芽衣ちゃん、すごくタイプ。よかったら今度、ふたりで食事でも行かない?”
この誘いに即レスしたことは、言うまでもない。
…ところが、運命はそう簡単に幸せを許さない。
この初デートで、芽衣はこの男から思いがけぬ洗礼を受けるのだった。