2018.10.12
私、“彼好み”になれない Vol.3(翌日)
−よし、今日は早く帰れそう…!
今日中に返すべきメールをすべて打ち終えた芽衣は、スマホ画面に表示された“18:06”という数字を見てにんまりと微笑んだ。
昨夜は随分と飲み過ぎてしまったが、重たい体と相反して心は随分と軽い。
絢香が優しく愚痴を聞いてくれたこと、そして最後にはバッサリと芽衣のモヤモヤを一刀両断してくれたことが効いているのだ。
−そんな彼、さっさと切り捨てなさい−
真顔で言われたその言葉は、想像以上に深く響いた。それはつまり、自分でも薄々そうすべきだとわかっていたから、かもしれない。
しかし、すでに芽生えてしまった恋心を簡単に消し去ることは難しい。
芽衣は、長谷川の部屋で見知らぬピアスを見つけたことを彼に伝えていなかった。…というより、伝えられなかった。
どうしても、「彼に嫌われたくない」という乙女心の方が勝ってしまう。
それゆえ、もし今再び長谷川から連絡が来たりしたら…断りきれる自信もなかった。
だからこそ今日は仕事を早く切り上げ、ある場所へ行こうと心に決めていたのだ。
謎のイタリア男
急いで会社を後にした芽衣が足取りも軽く訪れたのは、上司からオファーがあった、例のセレクトショップである。
−よかった、間に合った…!
閉店時間の20時まで、まだ1時間ほど時間がある。
店内をゆっくりと見て回りながら、芽衣は自然と胸が高鳴っていくのを感じた。
レザーやファーの使い方が個性的なニット、インポートらしいカラー使いのアウターなど。眺めているだけで心がときめく。
ーやっぱり私、こういう主張のある服が好きだなぁ。
改めてそう実感していると、ふいに背後から陽気な声がした。
「アナタ、このドレス絶対似合うよ!」
「え…?」
突然のことに目を丸くして振り返ると、ここのスタッフなのか客なのか…よくわからないが、イタリア系と見受けられる外国人男性が、艶やかなブルーのシルクドレスを手にし、満面の笑みでこちらを見ていた。
「アナタ、美人なのにそんな地味な服着てたらもったいない。もっと気分が明るくなる服を着なくちゃ」
一方的にそんなことを言うと、彼は「ほらほら」と芽衣を更衣室に誘う。
「え、ちょっと…」とかすかに抵抗しながらも、芽衣は彼が手に持つドレスに目が釘付けだった。
彼の言うとおり、いま芽衣が着ている女子アナ風のコンサバなワンピースなんかより、ずっと自分らしいファッションに思えた。
ちらりと見えたブランドタグで、オスカー・デ・ラ・レンタのものだと確認する。
「着替えたら、出てきてネ」
陽気なイタリア男はそう言ってウィンクをすると、芽衣とドレスを更衣室へと押し込めるのだった。
「ワオ!すごく似合うよ!ほら、こっちに出ておいで」
着替えを終えた芽衣が更衣室のドアを開けると、イタリア男が大げさに拍手をしながら褒め称えてくれた。
彼があまりにも「ビューティー!」「綺麗!」などと連発するので恥ずかしくなってしまうが、しかし鏡に映る自分に、自分でも見惚れてしまう。
顔まわりがパッと華やぎ、何より心が明るく、前向きにさえなっている。
すると照れ笑いを浮かべる芽衣の耳に、思いがけず、イタリア男とは別の男性の声が聞こえた。
「本当だ。すごくお似合いですよ」
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