ふぞろいな駐妻たち Vol.9

駐在の切符を手にした、理系エリート男。夫の純粋で残酷な愛が、妻を追い詰める…

駐妻【ちゅうづま】―海外駐在員の妻。

数多の平凡な妻の中で、一際輝くステータス。

共通点はただ一つ、夫について、海外で暮らしていること。

駐妻ワールド。そこは華麗なる世界か、堅牢なる牢獄か。

夫・彬の赴任に伴い、タイ・バンコクに来た里香子駐妻たちのマウンティングに意気消沈しかけるも、バンコクで働く友人ケイと、同じく駐妻の雪乃に励まされる日々。

里香子は、念願の昇進を果たした彬に言われた言葉がきっかけで家を飛び出してしまう。

一方、友人の雪乃は、夫・仁志が「女連れで空港にいた」とケイからの目撃情報が入ったことをきっかけに、夫の女遊びを知るのだった。

雪乃に密告したことや、タイ人彼氏の存在を隠してきた独身のケイは自己嫌悪に陥る。そこに、意外な訪問客、里香子の夫がやってきて―。


「ここ、ローカルのビジネスマンに人気のお店なんです。味は良いんですけど、車で来づらいせいか日本人の奥様たちはスルーしてて、穴場なんですよ」

ケイはそう言うと、さっと手を挙げてランチのプリフィクスコースをオーダーした。

二人で食事をするのはもちろん初めて、しかも彬が会社に押しかけた形だ。恐縮している彬の気持ちを慮って、ケイは殊更気さくに振舞ってくれているようだった。

彬は、ウェイターがグラスにペリエを注ぐのを待ってから、改めてケイに頭を下げた。

「お気遣い、ありがとうございます。突然2人で昼食を、などとお願いして申し訳ありません。里香子は今日、ボランティアで児童養護施設に行っていて、このことは話していません」

日本人に詮索されないようにと、ケイはとっさに店を考えてくれたのだろう。彬は彼女の機転に感謝した。

「貴重なお時間をいただいているので、単刀直入に相談させていただきます。実は昨日、里香子と口論になって…。里香子をとても傷つけてしまいました」

ケイはちょっと目を見張ってから、「なるほど」と先を促す。

「昇進が決まって、調子に乗った僕が、『里香子も東京にいた頃みたいに頑張れ』と言ってしまいました」

「それは禁句じゃないですか?あの里香子になんてことを…」

ケイが思わず突っ込んだ。

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