最高に好きだった人と、最低の別れを迎えたのは、29歳の秋のこと。当時、私は自分よりちょうど一回り年上のカメラマンとお付き合いをしていました。
私はファッションブランドでプレスの仕事に就いており、彼とはタイアップ広告の撮影に立ち会った際に知り合いました。それからは、ごく自然な流れで交際に発展したのです。
背がすらりと高く、黒縁のウェリントンが似合う端正な顔立ち。
博識で話題も豊富な彼は、Tシャツにデニムというまったく飾り気のない服装でも、女性の興味を十分に引く魅力がありました。
狭い業界ですので、彼と付き合っていることは、ほとんど誰にも話しませんでした。
有名カメラマンの彼と付き合っていることが知られたら、業界中の女性たちのやっかみの対象になることは目に見えてましたから。
秘密の恋だったこと以外は、私たちはどこにでもいるような、ありふれたカップルだったと思います。
私は穏やかで優しい彼のことを心から愛し、彼もまた、私と過ごす時間が最高に幸せなんだといつも言ってくれて。気が付けば、交際をはじめてあっという間に3年が経過していました。
それなのに―
30歳の誕生日を目前に控えたある日のこと。
学生時代の親友から、衝撃的な画像が添付されたメールが送られてきたのです。それは、彼が日に焼けた美しい女性と仲睦まじく、ソファーで寄り添う写真でした。
そして…注釈には「妻」とあります。
写真を送ってきた親友はインテリアコーディネーターをしており、私とカメラマンの彼との関係を知る数少ない友人の一人でした。
インテリア業界誌を読んでいて、「リゾートリビング」という特集記事で、たまたま彼の名前を発見したというのです。
記事を読んでわかったことは、彼が実は既婚者で、ハワイで飲食店を経営している奥様とは長く別居しているという事実でした。
ハワイの自宅のおしゃれなリビングが、偶然インテリア業界誌の編集者の目に留まり、夫婦そろって取材を受けたようでしたが…。
きっと彼も、まさか私がインテリア業界誌に目を通すとは思いもしなかったのでしょう。
私はすぐに彼に電話をして問い詰めました。はじめは白を切っていた彼ですが、次第に開きなおったような口調になり、話の途中で一方的に電話を切られてしまいました。
どうしても彼の口から直接真実を聞きたくて、狂ったように彼を探しましたが、自宅からも姿を消し、電話もメールもすぐに繋がらなくなってしまったんです。
後に人づてに聞いたところ、私から逃げるようにハワイに去っていったそうです。もともと「そろそろ活動の拠点をハワイに移そうと考えている」と周りに話していたのだとか。
私との関係も、曖昧にしたまま自然消滅でも狙っていたのでしょうか…
―はじめから遊びのつもりだったの?
―あなたからの愛してるは全部、ウソだったの?
私は心から愛していた彼に対する不完全燃焼な気持ちを抱えたまま、突然闇に放り出されてしまったのです。
この記事へのコメント
ついにスピリチュアル方面にいっちゃうのー…笑