彼の裏切りを知ってからの私は、完全に抜け殻でした。
生気を失った私を心配した友人たちが頻繁にお食事会に誘ってくれましたが、目の前に並ぶどんな素敵な男性も、彼と比べるとみんなかすんで見えてしまって…
結局、その彼を忘れられないまま、気が付けばさらに2年もの歳月が経過していました。
そんなある日、懇意にしていた女性誌の編集者から偶然、私の運命を変えることになる興味深い話を聞くことができたんです。
彼女は、その当時流行していたパワースポットの特集記事を担当していました。
私に長い期間彼氏がいないと知ると「それなら最高にご利益がある縁結びの神社があるから行ってみてよ!」と言って、とある神社のことを、“参拝の5つの掟”と共に教えてくれたのです。
彼女に紹介されたのは、六本木にある【出雲大社東京分祠】でした。
言わずと知れた、最強の縁結び神社である島根の出雲大社の分祠ですが、六本木のど真ん中にこんな神聖な場所があるとはそれまで私も知りませんでした。
彼女曰く、その神社に参拝し、“縁結びの糸”なるものを購入して肌身離さず身に着けることで、良縁に恵まれるというのです。
さらに良縁を祈願する参拝にあたっては、以下の5つの掟を守るのが作法だと教えられました。
其の一:一人で行くこと
其の二:早起きをして行くこと
其の三:自宅と神社の往復は、直行直帰
其の四:フルメイクでおしゃれをして行くこと
其の五:自宅から神社に向かうまでの道中、誰かに声を掛けられたら、その日の参拝は取りやめること。
私は5つの掟を頭に叩き込み、次の土曜日、藁をもすがる思いで【出雲大社東京分祠】を目指したのでした。
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参拝当日は、その当時一番のお気に入りだったカーキ色のAラインのノースリーブワンピースに、ジミーチューのベージュのサンダルを合わせて出掛けることにしました。
ロングだった髪をきれいに巻き、メイクもいつも以上に丁寧に施しました。
早起きして8時前には出発したというのに、すでに太陽がじりじりと照りつける暑い日でした。
誰にも声をかけられないよう、前だけを見て速足で六本木を目指します。
幸い、誰からも声をかけられることはなく、無事に目的地に到着しました。
六本木通りの喧騒を離れ、1本中に入ったところに、【出雲大社東京分祠】はひっそりと存在しています。それは想像していた古めかしい神社の姿とはまったく異なる、近代的な鉄筋コンクリートの建物でした。
拍子抜けした気持ちで階段を使い、建物の2階に上がると、そこは確かに静謐な神社の空間で、私と同じような女性がすでに2名、真剣な表情でお参りしていました。
私も胸の前で手を合わせ、目を閉じます。
六本木とは思えない静寂が、まるで幸せを拒むかのように固くなっていた心を解し、素直に良縁を望む気持ちを神様に告白させてくれました。
すっかり清々しい気持ちで満たされた私は、 興奮冷めやらぬうちに‟縁結びの糸”を購入。
それは、赤と白の絹糸が数十本ずつ束になり、ねじった状態で紙に包まれています。これを”肌身離さず”身に着けることでご利益があるのだと聞いた私は、妙にドキドキしながら帰路についたのでした。
せっかく六本木まで来たのだから、あの当時オープンしたばかりだった『マーサーブランチ』に足を延ばしてふわふわフレンチトーストのモーニングでも…と一瞬、邪念が頭をよぎったのです。
でも、直行直帰の掟を思い出し、後ろ髪惹かれる思いで六本木を後にしたのでした。
この記事へのコメント
ついにスピリチュアル方面にいっちゃうのー…笑