パーフェクト・カップル Vol.15

「なんで今さら?」深い傷を残した昔の男からの連絡で、心が崩壊しそうになる人気モデルの苦しみ

誰もがインターネットやSNSで監視され、さらされてしまうこの時代。

特に有名人たちは、憧れの眼差しで注目される代わりに、些細な失敗でバッシングされ、その立場をほんの一瞬で失うこともある。

世間から「パーフェクトカップル」と呼ばれる隼人と怜子は、一挙一動が話題になり、「理想の夫婦」ランキングの常連として幸せに暮らしていた。しかし結婚6年目、人気アナウンサーの夫・隼人が女の子と週刊誌に撮られてしまう謹慎処分を受けた隼人だったが、彼を陥れたのは、2人の悪意の偶然の連鎖の結果だった。

夫のピンチが続く中、妻は番組での夫婦共演で夫を救うことに成功する。しかし新たな問題が夫婦に降りかかる…。

「世間の目」に囚われ、「理想の夫婦」を演じ続ける「偽りのパーフェクトカップル」の行く末とは?


「…なんで、今さら…。」

撮影の合間に、楽屋で開いていたパソコンに突如届いたメール

その差出人を確認した瞬間、私は凍りついた。忘れたはずの深い闇に一瞬で引き戻される感覚に、意識を失いそうになる。

自分の携帯番号を変え、あの男の情報をすべて捨て去った6年前。あの時に、なぜ、パソコンのメールアドレスも変えておかなかったのか。

後悔しても、もう遅い。

『怜子、大丈夫なのか? 番組で顔を見て、心配してる。』

メールの本文は、たったこれだけ。たった一行のこの短い文章で、相変わらずあの男は私を破壊しようとする。

―私を捨てた男。

返事が欲しいとも書かれていないその文章の、意味を、目的を、冷静に分析しようと思ったけれど、耳鳴りなのか脳内にキーンという音が響き始め、頭が働かない。

指先が一気に冷え、震え始める。喉にせりあがってくる吐き気のような感情に、思わず嗚咽が漏れた。

楽屋の外でスタッフが動き回る音がする。これ以上声をもらしたくなくて、きつく歯を食いしばる。

―どこかに逃げたい。

反射的にこみ上げた逃亡願望を抑え込むために、私は、音が出るほど乱暴にパソコンを閉じた。

蘇る記憶に気づかないふりをして、隼人や翔太の笑顔を必死で思い出す。

私は、今、幸せを手に入れた。ウェディングドレスでうずくまって、1人で泣いてた私は、もうどこにもいない。

―大丈夫、大丈夫。

自分の体を自分で抱きしめながら、呪文のように繰り返していると、ノックの音がして、体がビクッと反応する。

「…は、はい。」

なんとか返事をすると、メイクさんの声で、そろそろ撮影が始まりそうだからメイクを最終チェックしたい、と言われた。

私は慌てて呼吸を整えてから、どうぞ、と精一杯声を張り上げた。

―泣いてはいなから、大丈夫なはず。

「失礼しまーす。」

底抜けに明るいメイクさんの声に、私は振り向き、いつもの笑顔を作って見せたはずだったけれど。

「怜子さん、顔が…。」

メイクさんが心配そうに駆け寄ってくる。

私は何のことかわからず、鏡の中の自分の顔に視線を送る。そして、ようやく気が付いた。

「…あ。」

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