―あの子と私。一体どっちが、女として賢いの...?
聡子は、外資系広告代理店で働く27歳。
周囲が海外経験者ばかりの中、唯一独学で英語をマスターし、意気揚々とキャリアに邁進している。激務も順調にこなし、充実した日々を送る彼女だがー。
頭の隅では、恋愛や婚活に重きを置き、要領よく人生を謳歌する“ゆるふわOL”に小さな嫉妬を抱いていた。
久しく恋愛から遠のいていた聡子は、忘れられない元彼・陽介に偶然再会するも、彼には結婚間近の恋人がいることが判明。
そんな中、陽介の同僚・ワタルとの距離が縮まると同時に、陽介からも甘い言葉を囁かれ、聡子の気持ちは傾いていく。
「ちょっと、話があるんです」
仕事場で待ち伏せをしていた陽介の恋人・知美の姿を目にして、聡子は反射的に身構えた。
「ど、どうしたんですか?突然、こんなところで...」
動揺しながら答えると、知美は1枚の名刺を見せる。それは、先日バーで鉢合わせてしまった際に聡子が渡したものだった。
どうやら彼女は、その情報を頼りに聡子のオフィスにやって来たらしい。
「あのぅ...。私だってこんなことわざわざ言いたくはないんですけど...。聡子さん、陽ちゃんにちょっかいを出すの、やめてもらえませんか...?」
知美は長い睫毛を不安げに瞬かせ、今にも泣き出しそうな声で言った。
その様子はまさに怯えた小動物で、傍から見れば、まるで聡子が彼女をいじめているように見えないかと不安になる。
だが、そんな弱々しい態度とは裏腹に、彼女が“陽介は自分のものだ”と聡子に宣戦布告をしにやって来たことは明白だ。
きっと知美は、陽介の気持ちが傾き始めたことに気づき、焦って聡子にアプローチを図ったのだろう。
―本当に陽介のことで頭が一杯なのね...。
聡子はそんな彼女に呆れ、もはや同情心すら芽生えてしまう。だが、ここは年上の女として、毅然と対応すべきだろう。聡子は姿勢を正し、冷静に口を開く。
「あのね、知美さん。私はちょっかいなんて...」
「陽介、私と結婚するってずっと前から言ってくれてたんです!だから、これ以上横槍を入れるのはやめてください!!」
「え......」
知美の悲痛な叫びが胸に突き刺さり、聡子は一瞬目眩がした。