―あの子と私。一体どっちが、女として賢いの...?
聡子は、外資系広告代理店で働く27歳。
周囲が海外経験者ばかりの中、唯一独学で英語をマスターし、意気揚々とキャリアに邁進している。激務も順調にこなし、充実した日々を送る彼女だがー。
頭の隅では、恋愛や婚活に重きを置き、要領よく人生を謳歌する“ゆるふわOL”に小さな嫉妬を抱いていた。
久しく恋愛から遠のいていた聡子は、忘れられない元彼・陽介に偶然再会するも、彼には結婚間近の恋人がいることが判明。そんな中、陽介の同僚・ワタルとの距離が徐々に縮まり...?
―うん。“私らしくて”イイ感じ...!
ビルのエントランスのガラスに映る、パンツスタイルの自分の姿を見て、聡子は一人小さく頷く。
今日は打合せのため、再び陽介の会社を訪れている。
彼が、パンツよりもスカート、モノトーンよりも明るいパステルカラーを好むことは分かっているが、先日の食事会のように、下手に“女らしい”媚びたファッションをするのはやめた。
というのも、先日ワタルからスーツ姿を“聡子らしくて似合っている”と褒められたのが、頭に残っていたのだ。
「聡子、いらっしゃい」
オフィスに到着すると、陽介が笑顔で聡子を迎えた。
「よろしくお願いします。...あら?今日は陽介だけなの?」
「ワタルは今日は外出なんだ。何だよ、俺だけじゃ不満?」
会議室に二人きりという状況に聡子が緊張していると、陽介は悪戯っぽく微笑む。
「ううん、そういう意味じゃなくて…!ただ、この前ワタルくんと会ったときは、今日の打ち合わせ不在だとは言ってなかったから...」
「...この前って?」
「あ...実は先週、ワタルくんと飲みに行ったの」
聡子が答えると、陽介は不快そうに顔を歪めた気がした。だが、それはほんの一瞬のことで、彼はすぐにいつもの穏やかな表情に戻る。
「そうだったのか...。ねぇ聡子、このあと空いてる?打合せが終わったら、今日はもう帰れるんだ。俺とも食事に付き合ってよ」
思いがけない陽介の誘いに、聡子は二つ返事で頷いた。