「え!意外。美和子ちゃんアメトーク見るの。俺もお笑い大好きだよ」
絶対に男受けしないであろう答えを言ったのに、健太には逆に響いてしまったようだった。…というより、彼は女性の扱いに慣れている男だから、あの時私がどんな答えを言っても打ち返してきていたのだろう。
「じゃあさ、今から俺の家で一緒にお笑いでも見る?」
健太はすかさずそんなことを言って、悪戯な表情を見せた。そのさらりとした言い方は不思議に不快ではなく、むしろ私の心の壁をするりとすり抜けた。健太は天性の“人たらし”なのだ。
「…そんないきなり、家に行くわけないでしょ」
嫌な気はしなかったが軽く見られたくなくて、私は冷たくあしらう。
しかし彼はそんな私の反応も予想していたのだろう。無邪気な笑顔を見せたと思ったらふいに真面目な眼差しで、私の心を翻弄するのだった。
「あはは!そうだよね。じゃあ、今度俺とデートしてよ」
…私と健太は、そんな風にして始まった。
安心感と引き換えに…
付き合いが始まって半年が経つ頃、私と健太はとあるきっかけで一緒に暮らし始めた。
というのは、健太の勤め先は損害保険会社なのだけれど、私と出会う直前に本社に異動になったばかりだった。(それまでは千葉の営業店にいたらしい。)
真新しい業務と慣れない環境に追いつくため休日返上で仕事に励んでおり、彼はとにかく忙しかった。
仕事は応援しているものの、楽しみにしていた『アロマフレスカ』でのクリスマスディナーをキャンセルされたときに私はとうとう爆発して、その喧嘩の最中に健太から同棲を提案されたのだ。
結婚前の同棲に不安がないわけではなかったけれど、私は何より毎日健太に会えることが嬉しくて、年明け早々に彼の家に転がり込んだ。
どれだけ残業や接待で遅くなっても、毎晩必ず同じ場所へ帰るという安心感。その幸福は想像以上で、私たちは新婚さながら毎晩のように抱き合って眠った。
それから4年半。私たちは変わらずずっと仲良しで、磁石のプラスとマイナスのように、離れる日など永遠にこない、そう思っていた。
ある疑問を持つようになったのは、同棲後1年が経つ頃だ。
何か明らかな問題があったわけじゃない。私が変わったわけでも、健太が変わったわけでもない。私たちはただここ東京で生き抜くために、毎日をがむしゃらに生きていただけ。
忙しい日々の中で、毎朝毎晩存在を確かめずとも安らぎを得られるようになった頃、気づけば私と健太は、“プラトニックな恋人”になっていた。
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誰にも相談できず悩みを深める美和子に、追い打ちをかける出来事が。
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この記事へのコメント
このままじゃ、多分駄目になる。
気になります。
家族になっちゃうと、兄妹とか親子みたいな感じで
尚且つ、生活感満載のベッドでやる気もしなくなかなる。
永遠の課題かも。