2017.06.30
東京・ホテルストーリー Vol.11東京の女には、ホテルの数だけ物語がある。
「ホテル」という別世界での、非日常的な体験。それは、時に甘く、時にほろ苦く、女の人生を彩っていく。
そんな上質な大人の空間に魅了され続けた、ひとりの女性がいた。
彼女の名は、皐月(さつき)。
これは、東京の名だたるホテルを舞台に、1人の女の人生をリアルに描いたストーリー。
埼玉出身のごく普通の女子大生だった彼女の人生は、少しずつ東京色に染まっていく。
「東京・ホテルストーリー」一挙に全話おさらい!
第1話:大学1年の女に衝撃を与えたアフタヌーンティー
地元の高校に通っていた頃は、週末によく友達とオシャレをして渋谷や原宿に遊びに行ったし、そこで声をかけられて撮られたスナップ写真が、人気ティーン誌の半ページを大きく飾ったこともある。
自分は比較的恵まれた女で、ましてや田舎者だとか芋っぽい女だとは思ったこともなかった。
しかし、煌びやかなキャンパスライフを夢見て入学した「お嬢様校」と名高い女子大で出会った、一部の内部進学の女の子たちによって、私の世界は大きく変わった。
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第2話:恋人に裏切られた夜。知らない男に、驚くほど無防備になった私
都内の高級ホテルを自然と使いこなせる女になるのは、私の理想とする大人の女性像の、一種の指標のようなものだった。
―いつか、パークハイアットに泊まれるような大人になる―
そして、18歳のときに自分に誓った約束は、社会人になって間もなく果たされた。私は年上の、力のある恋人を手に入れたのだ。
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第3話:23歳の女が経験した、健全とも不純とも言えない不思議な一夜
恋愛で悩んだり苛立つことは、実はとてもエネルギーを使う。年を取ると体力もなくなって、そんな感情も麻痺するから、それも若さの特権だ。豊さんは、そんなようなことを言って、始終からかうような笑みを浮かべていた。
「年上の人は、みんな若さの一言で片づけようとするけど、今は今だから、分からないです!」
何度も子供扱いされてムキになった私に、豊さんは「じゃあ気分転換に、ちょっと抜け出そうよ」と、強めに手を引いた。
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第4話:20代が、永遠に続くと思ってた。都会を謳歌した女の野心
地元埼玉では若くして結婚した同級生もチラホラいたが、都内で仲の良い女友達で結婚を決めたのは優子が初めてであったし、『ザ・ペニンシュラ東京』で結婚式を予定していると聞いたときは、ますます楽しみになった。
ただ、学生時代から散々東京の煌びやかな生活を共有してきた親友の結婚は、まるで“蛍の光”が遊園地の閉園時間を告げるような、ちょっとした切なさも含んでいる。同時に私は、「27歳」という年齢が、決して若すぎるわけでもないということを強く実感した。
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第5話:女の絶頂期、27歳。自惚れた私に突きつけられた、非情な現実
自由な独身生活が名残惜しい気もするし、27歳で家庭に入るのは少々若すぎるかもしれない。しかし、何事も「もう少し行けるかも」くらいの地点で打ち止めるのが、賢い選択ではないだろうか。
結婚後を想像してみる。白金あたりのマンションに新居を構え、落ち着いて余裕のある、幸せな妻となった自分。
素敵な男性との結婚こそが、本当の意味で東京に根を張るための最大の登竜門だ。当時の私が、ひどく浅はかな妄想に陶酔していたのは、言うまでもない。
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第6話:30歳目前。絶妙な距離感の恋人関係を覆した、忘れられない夜
彼とは新卒からの顔見知りで、会社での付き合いも長かった。癖のない顔立ちで、綺麗な歯並びは好印象だが、中肉中背で、外見は至ってふつう。しかし仕事はよくできて、真面目で頼りになる。
それまでプライベートの交流は一切なかったのに、私たちは“古い映画が好き”という、ありきたりな共通の趣味が判明したことにより、一気に距離を縮めた。
春斗とは、これまで経験のない、落ち着いた穏やかな関係を築くことができた。恋愛体質の私には珍しいことだ。あるいは、それは単に、本当の意味で“大人になった”ということだったのかも知れない。
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第7話:自己満足なんて言わないで。幸福な花嫁を襲う、結婚式のジレンマ
春斗との交際はまだ3ヵ月ほどで、喧嘩などはないものの、特に目立った盛り上がりもなかったから、まさかプロポーズされるなど、本当に予期していなかったのだ。
彼の行動力に尊敬と感動を覚えながらも、しかし私は頭の隅っこで、「来るべきときは、こうやって来るのか」なんて、このプロポーズというイベントを冷静に受け止めてもいた。
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第8話:30代花嫁のプレッシャー。自意識過剰な女を救った、婚約者の愛
会費は、男女の傾斜をつけるべきか。二次会でそれほど高い金額を徴収したくないが、かといって、中途半端な場所で乾きものの食事を提供するのも気が引ける。考えれば考えるほどに条件は狭まり、予算は膨らむばかりだ。
春斗とこれ以上険悪になるのだけは避けたかったし、ムキになった私は彼の連絡にも素っ気なく応対していたから、一人で頭を悩ませていた。
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第9話:幸せ絶頂の新婚生活。その後の“現実”から逃げる女に訪れた転機
ただ、タワーマンションの生花で飾られた豪華なエントランスを通り、気品溢れるコンシェルジュに軽く会釈をして自分の部屋に戻ったとき、私はどうしてもその“現実感”に切なくなることがあった。
掃除や装飾に手を抜かれた部屋は、一気に生活感に溢れ、スタイリッシュさには程遠い状態になってしまった。しかし、窓の外の東京タワーは、何一つ変わらずに美しく都会を照らしているのだ。
そんな光景に、時に目を背けたくなるような気持ちになるのは、単に私の我儘なのだろうか?
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第10話:寂しい女は、意地悪になる。優しい夫に苛立った午後
―これから、何しよう...。
ホテルには2泊する予定だった。この週末は、たっぷりと優雅な非日常を味わおうと思っていたのだ。お行儀悪く、ベッドに大きく寝転がってみる。肌に少しヒヤリとする、柔らかなシーツの感触が心地いい。
しかし、一度沸き上がってしまった孤独感は消えなかった。「ホテルに泊まっておいで」なんて提案してくれた優しい夫に、お門違いな苛立ちすら覚えるくらいに。
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