東京の女には、ホテルの数だけ物語がある。
「ホテル」という別世界での、非日常的な体験。それは、時に甘く、時にほろ苦く、女の人生を彩っていく。
そんな上質な大人の空間に魅了され続けた、ひとりの女性がいた。
彼女の名は、皐月(さつき)。
これは、東京の名だたるホテルを舞台に、1人の女の人生をリアルに描いたストーリー。
埼玉出身のごく普通の女子大生だった彼女の人生は、少しずつ東京色に染まっていく。
初めて都会の高級ホテルというものに足を踏み入れたのは、大学に入学して間もない頃だった。
埼玉出身で中流家庭育ちの私は、特に自慢できるほどの贅沢をしたことはないけれど、何か不便を感じたり、他人に劣等感を持つこともなく生きてきた。
地元の高校に通っていた頃は、週末によく友達とオシャレをして渋谷や原宿に遊びに行ったし、そこで声をかけられて撮られたスナップ写真が、人気ティーン誌の半ページを大きく飾ったこともある。
自分は比較的恵まれた女で、ましてや田舎者だとか芋っぽい女だとは思ったこともなかった。
しかし、煌びやかなキャンパスライフを夢見て入学した「お嬢様校」と名高い女子大で出会った、一部の内部進学の女の子たちによって、私の世界は大きく変わった。
入学祝いにずっと欲しかったエルメスのフールトゥを親から貰って喜んでいた私は、何よりもまず、彼女たちの持ち物の華やかさに驚いた。
日替わりと言っても大袈裟でないほど多くのブランドバッグに、カルティエやロレックスの高級時計。
化粧品もドラッグストアで売っている類のものではなく、シャネルやディオールの高級感あるコンパクトケースが、やはりブランド物のポーチに上品に収まっている。
さらに彼女たちのほとんどは都心の一等地に実家があり、1時間近くもかけて埼玉から電車でキャンパスに通う私とは、異世界の人種に思えた。
私はそんな彼女たちに、新宿の高級ホテルのアフタヌーンティーに誘われたのだ。
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