2017.04.22
東京・ホテルストーリー Vol.1優雅なアフタヌーンティーで味わった、人生初の「格差」
「皐月も一緒に、『ピーク ラウンジ』に行こうよ」
出席番号が前後という縁で仲良くなった優子は、内部進学組だった。上品で可愛らしい顔立ちに、小柄で華奢な身体。実家は白金だそうで、絵に描いたようなお嬢様だ。
彼女のような子がどうして私と親しくしてくれるのかは不明だったが、この友情は、わりと長く続くこととなる。
情けないことに、そのとき私は、『ピーク ラウンジ』が何のことか分からなかった。
だが、穏やかな笑顔でキャンパス内のカフェにでも誘うように言った優子に、それはどこなのか聞き返すのも恥ずかしく、私は「行く行く」と何気ない素振りで承諾したのだ。
内部進学組の女の子たちに連れて行かれた先は、『パーク ハイアット 東京』のアフタヌーンティーだった。
エントランスを前に、私は鳥肌が立つほど緊張した。
ホテルの豪華さや、ドアマンたちの洗練された立ち振る舞いに怯んだのもあるが、そこは私が大好きな映画「ロスト・イン・トランスレーション」の舞台であることに気づいたからだ。
薄暗いエントランスを抜け、不思議な生き物のオブジェが飾られたエレベーターで41階へ上がると、柔らかな自然光に包まれた、明るく開放的な空間が現れた。
ここが新宿のオフィス街だなんて、信じられなかった。
大きなガラス張りの窓の外には、高層ビルや車で埋め尽くされた道路という大都会の風景を眺めることができたが、そこは外の世界とは完全に切り離されているようだった。
ほどよい緑に囲まれたラウンジは、鳥のさえずりさえ聞こえてきそうな優雅さで、この場所だけ時間がゆっくりと流れているように思える。
私は、慣れた様子でお茶会を楽しむお嬢様たちに引けをとらない振る舞いをするので精一杯で、会話はほとんど聞き役に回ることとなったが、ただこの場所に身を置けることに、静かに興奮を覚えていた。
風味豊かな紅茶に、温かいスコーン、宝石のように可愛いプティデザートに、次々と運ばれて来るフィンガーフード。
普通の大学生の私には大きな出費に違いなかったが、このアフタヌーンティーには、それ以上の価値があった。
しかし、この華やかなお嬢様たちは、一体いつから、こんな場所でお茶をする楽しみを知っているのだろう?
ホテルのアフタヌーンティーに日常的に通う。白金で生まれ育つ。当たり前のように、ハイブランドバッグをたくさん持てる。
「格差」というものを目の当たりにしたのは、初めての経験だった。
比べるなんて馬鹿げている。
そう自分に言い聞かせ、この優雅な午後のひとときを満喫しようとする一方で、身を切られるような疎外感を、どうしても無視できなかった。
この記事へのコメント