「口説きベタなイケメン」
外資の広告代理店勤務の良輔、36歳。高身長でイケメンなのに、ここ数年彼女がいない。それゆえ、社内ではそんな風にささやかれていた。
良輔の弱みは、シャイ過ぎること。いざ好きな子を目の前にすると上がってしまい、沈黙が続くのだ。
しかしホワイトデーでの、男上司からの“ある無茶ぶり”が、良輔を変えた。
社内で評判の美人に片思い。その横顔に見とれてしまう…。
「私、社内恋愛って興味ないんです」
良輔が片思いしている優奈が、そんなことを言っていたらしい。教えてくれたのは営業部の上司、山下部長だった。
「彼女、手強いよ。アメリカの大学を卒業して、現地で働いてたらしいじゃん。元カレの写真見せてもらったけど、イケメンの外国人だったぞ!」
この間の飲み会で、優奈と席が近かった山下部長は、あれこれ聞いたらしい。
「良輔くん、頑張って」
山下部長は面白がるように良輔の肩に手を置き、去って行った。
―頑張れ、って言ってもなぁ…。
今年の1月。優奈は、良輔が勤めるこの外資系広告代理店に転職してきた。年齢は26歳、良輔より10歳も下だ。
綺麗にカールされたロングヘアに、時たま見せる物憂げな表情。
「めっちゃ美人が来たな」
営業部の男性社員は、優奈の登場に浮足立った。
良輔もご多分に漏れず、「よろしくお願いします」とにこりと笑いかける優奈に一目ぼれしてしまった。隣の席なので、思わずその横顔に見とれてしまう。
◆
そんな中で迎えた、今年のバレンタイン。
社内で気になる人がいると、普段は気も止めないイベントが重要な意味を持つ。しかし、そんな考えも杞憂に終わった。
優奈含めて3人の女性社員から、営業部全員にチョコが配られた。「いつもありがとうございます♡」とにっこりしながら手渡ししてくれたが、どう見ても500円程度の義理チョコ。
まだ結婚しない弟を憂いて、姉が仕込んだチョコレート(5歳になる姪の手作り)の方がよほど本命に近い。
―ま、当たり前だよな…。
そう思いながらもがっくりしていると、山下部長が後ろからささやいてきた。