「今年のホワイトデーはさ、全体からお返しっていうの廃止するから、お返ししたい人は個人でしてね。君らのセンスを競わせるよ。ふふ」
山下部長は、それだけ言って去った。ホワイトデーのお返しは毎年、みんなで買って割り勘していたのだ。
―この人、絶対面白がってる…!!
面白がっている上司を横目に、良輔は「人と違うものをあげて優奈の気を引こう」と決心した。
◆
翌週、取引先との打ち合わせ帰り。充電が危なかったので、近くにあったヤマダ電機で携帯充電器を買うことにした。
家電量販店に来るのは、久しぶりだ。店内を見渡していると、「ビタミンを吸える」と銘打った『VITACIG』という商品に目がいった。ホワイトデーに向けて女性へのプチギフトを探していたので、目新しいものに敏感になっている。
シンプルでカラフルなデザインの、スティック状のそれはビタミンが吸えるものらしい。アメリカ生まれで、電子タバコのような製品だが、ニコチンやタールは一切入っておらず、成分は天然素材とビタミンだけ。
―これ、喜んでもらえそう…!
良輔は、自分用とプレゼント用の4本を選び、レジへ向かった。
良輔は、優奈の気を引けるのか?
ホワイトデー当日。ランチから帰って来た女性3人を、良輔はすかさず捕まえた。
「これ、バレンタインのお返し。『VITACIG』っていう、新しいタイプの電子タバコなんだ」
「何これ、おしゃれ~♡」
3人はその場でわいわいはしゃいでいた。
「これアメリカに住んでたときに友だちが吸ってました!でもそのときは買えなくて…」
優奈が無邪気に喜ぶ姿はとても可愛らしく、また胸が高鳴る。
「良輔さん、これどこで買ったんですか?」
優奈に聞かれ、「打ち合わせ帰りに、ヤマダ電機で買ったんだ」と答える。すると優奈は「そうなんですね、他のフレーバーも試してみたいな」とつぶやいた。
良輔はそのつぶやきをしっかりキャッチし、席に戻り『VITACIG』をネットで検索した。仕事が終わり、さっそく優奈に声をかける。
「このサイトでも買えるみたいだよ」
「ありがとうございます。へぇ~、いろんなフレーバーがあるんですね」
2人で盛り上がっていると、山下部長が後ろから声をかけてきた。
「今日、レストラン予約してたんだけど、奥さんが熱出しちゃって。お前ら代わりに行かないか?」
「え!?」
驚いた良輔は、思わずうわずった声を出してしまった。
しかしこれは、優奈と接近するチャンスだ。勇気を出して「行く?」と聞くと、優奈は「はい」と間髪いれず答えてくれた。
良輔は、心の中でガッツポーズした。