2015.11.27
香港ガールの野望 Vol.1面積1103平方キロメートルに、人口約717万人(増え続けている)。「国」と呼んでいいのかも分からないその「土地」は、中華人民共和国香港特別行政区、通称香港と呼ばれている。
英国による長い統治時代を経て、1997年中国大陸へと変換された香港は、その昔迫害を受けた人々がより良い生活を夢見て向かう、「難民島」であった。小さいながらも、世界屈指の金融都市として、存在感を示す香港。
その土地に住む人々はしかし、行き過ぎた競争主義と先の見えない政治的不安に疲弊して、なんとか外に抜け出せないかと脱出の機会を伺っていた。
午後6時45分。すみれ色の空が一瞬黄金に輝いたかと思うと、一機の飛行機が円を描くように羽田に舞い降りた。耳慣れた会話が飛び交う中、誰よりも早く席を立ち、滑るように飛行機を降り立った香港からやってきたマギーは東京の甘い空気を味わおうと、胸いっぱい息を吸い込んだ。
「やっと着いた。」 ―そう心の中で叫んだつもりが、声に出ていたらしい。前を歩いていたサラリーマンの訝しげな視線を感じて、慌てて口をつぐむ。
ピンと張りつめた空気に、頬をかすめる隙間風。空港に響くアナウンスと共に、東京に着いたのだという実感がじわじわとこみ上げてくる。たった一ヶ月前にも訪れたばかりだというのに、笑みが止まらないのはなぜなのだろう。
数多の外国人観光客と共に入国審査を待つ傍ら、マギーは初めて東京を訪れたときのことを頭の中で思い描いていた。
マギー・ラム、27歳。ファッション、グルメ、そして「美」をこよなく愛する彼女は、香港でファッションデザイナーとして働く、生粋の香港女子だ。
彼女が初めて東京を訪れたのは7年前、20歳になったばかりの頃。化粧の仕方もろくに知らない、うら若き乙女だったマギーがそこで目にしたものは、丸の内を颯爽と歩くそう年の変わらない、けれど彼女より遥かに美しく洗練された、オトナの女性たちだった。
伝統とモダンを混ぜ合わせたようなアートを身にまとい、流行の先端を走り続ける女たち。
こんな街に住んだら、自分はどう変わっていくのだろう。
気がつけばそんなことばかり考えていた。その後22歳で専門学校を卒業し、ファッションデザイナーの下端として給料をもらうようになったマギーは、1ヶ月に1回、忙しい時も疲れている時も東京に通いつづけた。それはまるで、「東京」という名の恋人にでも魅せられるかのように。
「何度逢っても、飽きない男」ならぬ「何度訪れても、飽きない街」。マギーにとっての東京とは、そんな場所だった。
香港では、昼夜を通して働いた。日本以上に弱肉強食の世界である香港で生き延びるには、人の十倍才能に恵まれるか、人の十倍努力するかの、どちらかしかない。友人の多くは親に専攻を決められ、好きでもない経済や金融をひたすら勉強していた。香港人であれば誰もが直面する、非情な現実だった。
思えばファッションデザイナーを目指したのも、そんな拝金主義への抵抗があったのかもしれない。そしてそれは、決してたやすい道ではなかった。家族に何度やめてくれと懇願されたことか。それでも諦めずに勉強を続け、ここまでやってきたのだ。
信じて努力さえすれば、何だってできる。
それが、端くれながらもファッションデザイナーという夢を叶えた、マギーの信念だった。
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