軽井沢の冬 Vol.13

軽井沢の白銀世界のように、清濁併せ呑んでこそ、はじめて見える景色がある。

仕事でも恋愛でも、常に勝ち負けを意識し戦闘態勢を崩せない東京人たち。

人生の冬を迎え、心が渇いてしまったら、東京から1時間のオアシス・軽井沢で己を見つめ直すと良いかもしれない。

数々の東京人の心の回復をアシストしてきた、軽井沢で暮らす美希、35歳
しかし信頼していた夫・誠司の浮気が発覚し、美希自身にも人生の冬が訪れる。

そんな時、10年ぶりに元カレ・雄一に再会し心惑わされる美希。しかし、ある夜ふいにテレビから流れてきた懐メロが、夫婦の心を再び結びつけるのだった。

2人の結末は…?


良いとこ取りの人生では、見ることができない景色がある。


朝、目を覚ました美希は、窓の外に目をやった。

目の前に広がるのは、まさに白銀の世界。

夜半過ぎからしんしんと降り出した雪が降り積もり、裸木だらけとなってしまった真冬の別荘地を、雪景色に変えていた。

並んで建つ瀟洒な邸宅、そびえる白樺、モミの木。あたり一面に広がる絵本の中の世界は、無条件に美希の心を躍らせる。

「寒いからやめてくれー。」

格子入りの窓を開けようとして、隣で寝ている誠司に止められてしまったが、真冬の冷たく澄んだ空気には、何一つ余計なものが混じっていない気がして、美希は好きだった。

雪が降った翌朝の、まだ何者にも汚されていない、純白の世界を見ることができるのは、軽井沢で暮らすものの特権だ。

世間一般のイメージでは、軽井沢は夏に避暑に出かける場所であり、冬の軽井沢なんぞ寒いだけ、と思われているかもしれない。

しかし美希をはじめ、軽井沢で暮らす人々は、口をそろえて冬の軽井沢が1番好き、と言う。

真冬の明け方にはマイナス20度にもなる、厳しい軽井沢の冬。雪が止まない時は全身雪まみれになりながら雪かきをしないといけないし、日常生活に支障をきたすほどの筋肉痛にもなる。

それでも、今朝のような筆舌に尽くせぬ絶景を眼前にすると、そんな苦労やマイナスも、この素晴らしい瞬間を迎えるためにあったのだ、と思える。

良いとこ取りをして生きる人には、見ることができない景色がある。

美希は、朝陽を浴びてキラキラと輝く樹氷を眺めながら、そんな風に思った。

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